第零義 僕の物語

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やる気皆無の腐ったドブのように濁った死んだ魚の目。 イケメンでも無ければブサメンでも無く、中の中かフィルターで補正されたとしても中の上。 街中で擦れ違ったとしても、多分一秒後には忘れてしまいそうな特徴の無い顔。 無理にでも特徴を挙げろと言われたら、暫く考え込んだ末に優しそうという困った時御用達のフレーズが出て来るだけだろう。 それでもやはり、僕が見間違えるなんて事は有り得ない。 あれは正真正銘エルフのお姉さんが求めていたレオンハルト・スターダスト本人。 「き、君は昼の!!? 何故君が──いや、貴方がレオンハルト・スターダストだったのか。 酒場で見掛けたと言ったのは、ここに来いという意味だったのだな……………………」 肯定するでも否定するでもなく、レオンさんは様になる動作でグラスを傾けた。 …………………何でだろう、あそこにいるのはレオンさんで間違い無いはずなのに。 少し、違和感。 別人では無いけれど、僕が毎日会ってるレオンさんとは何かが異なる気がする。 酒場の雰囲気がそうさせているだけなのかもしれないけど。 「…………………話を聞くにしても、先ずは何か頼めば?」 「あ、あぁ…………………………」 疑い。 ここに来て、素顔を見てエルフのお姉さんに疑心が生じる。 確かに、それも無理は無い。 目の前にいるのは本物のレオンハルト・スターダストだけど、 エルフのお姉さんは今日の昼に悪漢に追い回され逃げる情けないレオンさんを目撃してる。 レオンさんはオンオフの切り替わりが激しい人だけど、 それは僕だからこそ知っている事であってエルフのお姉さんに知る由は無い。 「すいません、メニューを──────」 エルフのお姉さんが店員を呼び止め、注文しようとしたその時。 2人のいるテーブルに、3人の体格の良い男がやって来た。 「なぁなぁお姉ちゃん、こっち来てオレ達と飲もうぜ?」 「オイオイ、本物のエルフじゃんか!」 「アンタみたいな美人さんがこんな冴えない奴と飲んでても勿体無いって。」 ガハハと、完全に酔っ払いのノリで絡む男達。 絡まれたエルフのお姉さんはテンパってアタフタと慌てふためくが、 レオンさんは助け船も出さず他人事のように一人で酒を飲むだけ。 そんなレオンさんの態度に、男の一人が苛立ちをぶつける。
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