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どうやらヘビースモーカーのキスティにとっては、同じ量の純金よりも価値のある物だったらしい。
擦れた世捨て人のような常に低いテンションが反転し、
まだ熟し切っていない青い果実のようなフレッシュな顔で飛び付いた。
子供のように喜ぶキスティをレオンハルトは満足げに眺め、
「″師匠″がそれを欲しいって言ってたからさ。
頑張って手に入れた。」
「そう……だったか?
お前に言った記憶は…………いや、あるのか?」
覚えは無いが、いつかポロッと愚痴のように溢したのかもしれない。
空いたコップに酒を注ぎもせず気遣い0の弟子とは思えない最高のプレゼントだと、キスティは有り難く頂戴する。
「漸く渡せた。
″前は″渡せなかったけど。
今度は、ちゃんと渡せた。」
「前々から準備してたなら早く渡せってーの。」
もう用は済んだと、レオンハルトはいつもの憎まれ口も叩かず片手を上げて立ち去ろうとした。
普段ならば、キスティはこれ以上話そうとはしない。
寧ろ早く帰れと、蝿を追い払うようにするはずだ。
だが、何故だか今日はそのまま返すのが躊躇われて。
待て、と。
呼び止めてしまった。
「何?」
「えっと……………あれだ、火だよ火。
良い葉巻を寄越したんだ、火を付けるサービスも込みだろ。」
いつもならば、自分で出せと言うか良くてライターを投げるくらいだろう。
しかし今日のレオンハルトはわざわざ引き返し、ライターを着火させて差し出した。
「ほら、風に吹かれる前にさ。」
素直にライターを差し出された事に驚きつつ、キスティは口に咥えた葉巻を近付けた。
「悪いな……………ってお前、泣いてるのか?」
目尻から零れた涙が頬を伝い、跡を引いていた。
レオンハルトはそれを否定せず、
「言っただろ、タバコの煙は苦手なんだって。」
袖で涙を拭い、使い終えたライターをキスティの手に握らせた。
「おい、お前これ…………………………」
「それもやるよ、オレが持ってても意味無いし。」
愛煙家にとっては金銀財宝にも劣らぬ逸品まで貰ったキスティは何か裏があるのではと疑うが、
代わりに何かを要求する事もなくレオンハルトは足早に去っていった。
「………………こりゃ明日の天気は荒れるな。
てか、美味っ。」
肺まで大きく吸い込んだ煙を吐き出し、キスティは明日の天気を予知するのだった。
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