第零義 僕の物語

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さて、残念だけどエルフのお姉さんの頼みを断る際の謝罪を考えておかなければ。 藁にも縋る想いの人の頼みを断るのは気が引けるが、お引き取り願おう。 「…………………ま、これも巡り合わせか。 腕の立つ英雄じゃなくて、レオンハルト・スターダストという"個人"を御指名なら仕方ない。 その依頼、受けてやるよ。」 「えぇ、本当にすいません。 レオンさんはこう言う人でして────え?」 あれ、今レオンさんなんて言った? 僕の耳が腐ってなければ依頼を受けるって聞こえたんだけど? 「嘘、本当に受けるんですかレオンさん!?」 「何だ、オレが依頼を受けるのに駄目な理由でもあるのかよ?」 「いえ、素直に受けてくれるのならばそれは良い事なんですけど…………………何て言うか、レオンさんらしくないような気がして。」 そうだ。 いつものレオンさんなら間髪入れずに断ると一蹴しているはずだ。 そしてお約束ごとのように後々巻き込まれるまでがセット。 絶対に巻き込まれると最早法則とすら言える確実性なのに、絶対にそれを認めず遠ざけようとするのがレオンさんなのに。 今日のレオンさんはやけに物分かりが良い。 ……………………一体何を企んでいるんだろう? 「……………………サガ、買い物は終わったのか?」 唐突に、今までの会話の内容とはどう頑張っても繋がりそうにない質問がレオンさん口から飛び出して来た。 「ええ、まぁ………………あとは明日の水くらいですかね。」 「なら追加でこれも頼む。」 懐から取り出した紙切れにペンを走らせ、それを真ん中で折り畳み渡して来た。 「これは?」 「長い話になりそうだからな、頼んだわ。」 質問の答えになっていない。 そもそも答える気が無いのだろう。 「分かりました、じゃあ僕はこれで。」 テーブルに置いていた紙袋を抱え上げ、酒場を出る。 個人的にエルフのお姉さんがどんな依頼をするのか気になるけど、多分後で教えてもらえるだろうし。 「それにしても、何で鋏?」 紙か何かを切るために必要な物だから頼まれても全然不思議じゃ無いけどさ。 でもレオンさんが鋏を持ってないとは思えないんだよなぁ。 「考え過ぎかな?」 レオンさんは几帳面に見えていい加減な所があるし、きっと何処かに忘れて来たのだろう。
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