第零義 僕の物語

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普通の鋏で良いのかそれとも布切り鋏が必要なのか聞くのは忘れたけど、取り敢えずどっちも買っておこう。 うん、やっぱり僕って気が利く弟子だね。 「うぃー、ただいまーッス。」 僕に追加の買い物を押し付けて別れたレオンさんが帰って来たのは、 丁度僕が明日の朝食の準備を終え寝床に入ろうとした夜遅くだった。 酒は百薬の長、されど万病の元。 そして人を堕落させる悪魔の蜜だと日頃から誘惑を退けてるレオンさんにしては珍しく、かなり酔っているようだ。 足元は覚束ないし呂律も回っていない。 大方かなりの美人であるエルフのお姉さんに酌をされ、良い気分になって飲み過ぎたのだろう。 いや、お酒に飲まれたと言うべきかな。 「レオンさん、頼まれてた物買って来ましたよ。」 「さんきゅー、置いといてー。」 ポフッ、と。 外から帰って来たレオンさんは手も洗わずコートも脱がず、ベッドに直行し頭から飛び込んだ。 程なくして、聞こえて来る幸せそうな鼾(イビキ)。 どうやら寝てしまったらしい。 「ま、良いか。 ここ置いときますよ?」 完全に寝てるけど、一応断ってから頼まれてた鋏をレオンさんの枕元の机に置いた。 さて、僕も早く寝なければ。 明日は………いや、明日からはあの女の子の事件解決に取り掛からないといけないし。 やる事が一杯だ。 だけど、レオンさんがいれば何とかなるはずだ。 最善の形で決着が着くとは限らないけど、少なくとも悪い方向へ転落する事は無いだろう。 そう、レオンさんがいれば。 「─────────嘘、だろ?」 朝。 鶏が鳴き始めるような早朝ではないが、社会人がそろそろ起き始める時間帯。 僕はソファーの方から聞こえる話し声で目を覚ました。 「……………………事実、です。 近頃噂になっている新種の海洋性魔獣の調査に赴いた素材採取班班長(千盾)が。 ………………私の娘が班員を逃すための囮となり消息を絶ってから、もう一週間も経っているんです。」 必死にハゲの称号に抗うあの痛々しいバーコード頭には見覚えがある。 あれは確か、工業都市カルタゴの市長プーさんだったはずだ。 何で朝早くからこんな所に? 寝惚けた頭ながらもお客さんが来たならお茶を出さないとなんて考えを巡らせ睡眠の欲求と闘っていたが、 次第に頭が冴え2人の会話の内容が頭に入って来た。
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