第零義 僕の物語

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「付近の村を拠点として捜索を続けているのですが……………海洋性魔獣は陸にも縄張りを広げてから爆発的に増え、 最早素材採取班では縄張りの入り口に踏み込んで引き返すのが精一杯。 どうか、工業都市カルタゴの(千盾)を…………私の娘を助けて下さい。」 工業都市カルタゴの市長。 一都市の長でありながら、大国の王と肩を並べる程の影響力を持つ実力者。 世界を動かす最重要人物の一人であるそんな人が、 プライドとか体裁とか自分を飾り立てる鎧をかなぐり捨て一人の親としてレオンさんに頭を下げた。 それも、額を床に擦り付けた土下座。 人生の中で積み上げてきた物を取っ払ったその姿は、元々小柄であるという事とは関係無しに凄く小さく見えた。 「止めてくれよ、親父くらいの人にこんな事されてもこっちが心苦しいだけだって。 良いよ、その依頼受けるから。 頼むから顔を上げて話してくれ。」 知り合いにこんな事をさせるのは忍びないようで、レオンさんは直ぐに起き上がらせようとした。 しかし助けを求めた側のプーさんは死に物狂い故にレオンさんの声が届いていないようで、 暫くの間涙を流しながら額を床から離そうとはしなかった。 「……………………すいません、お見苦しい所を見せてしまいまして。」 「いや、娘のために泣いて頭を下げる父親をカッコ悪いとか情けないなんて思わないよ。 って、こんな問答はいらないんだ。 今は急を要するんだろ? 取り敢えず詳細な情報をくれ。」 報酬を吊り上げるための駆引き等は行わず、レオンさんは黙って話を聞いた。 そして聞き終えてから少し考え込み、ペンを走らせた。 「多分聞いてるとは思うが、オレは帝国との一件でほぼ全ての武器を失った。 今は丸裸に近い状態なんだ。 だから、何とか、最低限これだけは欲しい。 どうにかして揃えられないか?」 「大丈夫です、道具の件に関しては何の問題もありません。 現在全工房の通常業務を停止させ、総力を挙げて先日送って頂いた発注リストの品と普段頼まれる物を特急で作っておりますので。 恐らく今日の昼頃には全て完成するでしょう。」 「全工房の通常業務を停止って……………無茶するな。」 「父親にとって、娘のためにやる無茶は無茶ではなく義務なのですよ。」 カッコ良いお父さんだ。 バーコード頭でなければ様になっただろうに。
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