第零義 僕の物語

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運が良ければ…………いや、悪くなければ救われたはずの女の子を僕は見捨てなければならないのか? 僕よりも小さな女の子を。 あんな小さな体で、必死に救いを求めて逃げて来た女の子を。 それは………それでも果たして、僕は自分を許せるだろうか。 葛藤。 論理的に考えれば正しいけれど、感情では納得できない。 だけどその感情は僕の勝手な押し付けの願望であって、レオンさんが僕の願望に応えるような義務は無い。 勝手に期待して勝手に失望するなんて、僕はどれだけ自分勝手な人間なのだろうか。 こんな葛藤をしている僕を見かねたのか、レオンさんは真面目な時の淡々とした調子で口を開いた。 「サガ、今お前歳は幾つだ?」 「この前17になったばかりですけど…………………」 「オレが神獣序列19位 《百鬼夜行ヴァンパイア》を倒したのは16の時だった。 だからってお前にもオレと同じ事を求めようとは思わないが、お前ももう誰かを救える歳だ。 あの娘はお前が撒いた種だしな、お前が責任を持って守り通せ。」 今の僕よりも1つ年下のレオンさん。 きっと今よりも背は低くて、技も拙いものだったろう。 それでも神獣序列19位 《百鬼夜行ヴァンパイア》なんて化け物を倒せたのは、 それはレオンさんが世界中何処を探してもいない特別な人だから…………と。 言い訳したい。 僕には無理だと、出来ないと。 理由付けたい、逃げたい。 でも、駄目なんだ。 そうやって逃げてしまっては、この先もレオンさんに頼り切りで一人では何も出来なくなる。 16歳の時のレオンさんの背中が果てしなく遠い。 もしかしたら僕よりも小さかったかもしれないレオンさんは、もう既に英雄だったのだから。 「ええ、分かりました、分かりましたよ。 やってみます。 レオンさんみたいに根本的な解決にまでは至らないかもしれないけど、何としてでもあの女の子は守り通してみせます。」 「任せた。 帰って来たらあの娘は死にましたなんて、そんな目覚めの悪い報せは聞きたくないからな。」 確かにそうだ。 あの女の子を死なせてしまったら、レオンさんに顔向け出来ない。 「まぁ、そこまで気負うな。 オレがお前と同じくらいの頃よりはマシだ。 良い道具も揃ってるしな。 それと、今日の夜か明日の朝には間に合うように人を手配する。 何かあったら、そいつを頼ってどうにかしろ。」
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