第零義 僕の物語

22/118

30226人が本棚に入れています
本棚に追加
/786ページ
「それは心強いですね。」 しっかりな、と。 レオンさんは僕の肩を叩き、纏めた荷物を持ってプーさんと共に部屋を出て行った。 やっぱり待って下さいと追い掛けて引き留めたい気持ちを抑えて、 いつ襲撃されても対応出来るようにするための準備に取り掛かる。 レオンさんが手配してくれる人が来るまでの辛抱、何とかそれまでは持ち堪えないと。 「あの、ここは………………………」 僕の嗅覚ではかなりの厄介事の肝と感じた女の子が目を覚ましたのは、正午を少し回った辺りだった。 ずっと一人で逃げ、そして怖い想いをして来たのだろう。 警戒し、完全に怯え切っていた。 可哀想に、折角の可愛らしい顔がそれでは台無しだ。 「安心してよ、ここは僕達が使ってる安宿さ。 僕はサガ・ニーベルヘルン、昨日成り行きで君を助けたんだけど……………覚えてる?」 僅かに、女の子は首を傾げた。 無理も無い。 半日以上眠り続ける程疲労が溜まっていたのだ。 記憶があやふやなのも不思議ではない。 「兎に角、一応は君の味方だよ。 色々と事情があるんでしょ? 話してみなよ、きっと力になれるはずだから。」 「……………………………」 迷っているのか、まだ警戒しているのか。 女の子は考え込むように俯き、会話の間が空く。 しかし決心してくれたらしく、薄く開いたり閉じたりしていた口を結び話し始めた。 「…………………私、シルビア・ラヴクラフトと言います。 えっと、あの………助けて頂きありがとうございました。」 「うん、どういたしまして。 それで、何であの人達に追われてたの? まさかあの愉快な人達が全員パパさんで家出少女を捕まえに来た、なんて事は無いだろうし。」 おちゃらけてみたが、シルビアちゃんが抱える事情は単に家庭環境に収まるような軽いものでは無いらしい。 開いた口が、また閉じてしまった。 「自分の事情に他人を巻き込みたくないとか、そんな事は考えなくても良いよ? 君と会った時点で、僕はもう既に巻き込まれてるからね。 今更無関係ですって言っても見逃されないだろうし、僕のためにも話してよ。 君が抱え込んでる事情を、僕が成すべき事を。」 こう言われたら、もう無言を貫き通す事は出来ない。 きつく結ばれていた口が、諦めたように喋り始めた。
/786ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30226人が本棚に入れています
本棚に追加