第零義 僕の物語

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しかし、最優先とすべきはあくまでシルビアちゃんの安全。 今日の夜に到着する予定の協力者には申し訳ないが、組織の支配下にあるこの街は一刻も早く脱出するべきだ。 「降りるよ、掴まって!!!」 僕はまだ空間認識能力が養われていないので、レオンさんのように空間指定の結界は出せない。 だけど、術符を中心としたブロック状の結界を出すのは何故か得意だ。 それを不格好な階段のように積み上げ、地面に降りた。 僕達が降りたのは入り組んだ路地裏。 ゴミ箱や置場所に困る大きな物が置かれ、ジメジメと湿気が高くネズミや虫の天国と化した場所。 ここで一旦姿を眩まし、一気に馬小屋まで向かう。 「腐った泥水が跳ねた程度で一々気にしないの!!」 ビチャビチャと、汚い泥が跳ねる。 シルビアちゃんはそれらを心底嫌そうに顔を歪め意識を足元に割いたが、強引に手を引っ張って速度を維持する。 僕達は綺麗な道を走りたいなんて思ってはいけない。 蛆虫ゴキブリ百足の巣に足を突っ込んで踏み潰してなんぼのものだ。 「見付けたぞテメェ!!!!」 横の狭い隙間から、痩せぎすの男が飛び出して来た。 その手の中には、そこら辺で拾ったのであろう角材。 正面から殴り合えば普通に勝てそうだが、今はシルビアちゃんの手を引くのに片腕が封じられている。 しかも、不意討ち。 気付いた時には振り上げられてたあの角材は避けられそうにもない。 「符術【鋼化】」 袖の内側に縫い付けた術符を発動し、ほんの数秒だが服を鋼鉄の鎧と変化させる。 「な──────────ッ!!?」 鋼鉄の強度を前に一部腐っていたのであろう角材が堪え切れず折れた。 驚いている隙を逃さず、腰から抜いた伸縮性のロッドで顎を下から殴り上げる。 続けて額へ振り下ろし、殴り倒した。 「あと少しだよ、頑張って!!」 路地裏の出口が見えて来た。 馬小屋はここを抜けて直ぐの所だ。 一度竜馬に乗ってしまえば、シルビアちゃんの安全は約束される。 あとは組織の連中が先回りしていない事を祈るばかりだが、現実は希望と正反対の方向にばかり行くものだ。 「やっぱりここに来たか、先回りしておいて正解だったな。」 馬小屋の出入口を塞ぐように、5人の男達が立っていた。 所持している武器はナイフのみ。
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