第零義 僕の物語

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今回のような本当にヤバイ時に限って的確に苛つかせるから焼却の危機が何度も訪れるけど。 「シルビアちゃん、確か君走ってあの街まで来たんだよね?」 「はい、荷運びの馬車等に忍び込んで1週間程かけて……………………」 「じゃあ、元々君がいた場所はそこまで遠くないはずだよね。 その土地………街の名前は?」 「インスマス……………組織クラークが運営管理する海賊の船着き場で、裏社会の人間の溜まり場でもある非合法の街です。」 非合法の街インスマス。 高位魔獣が闊歩する第一級危険指定区域の森に囲まれた、海路を使わなければ入れない謂わば陸の孤島。 一番近くの街からでも馬の足で2日以上と人里離れた僻地にあり、 しかし海路を使えば潮の流れの関係で近くの港から四半日程度で辿り着けるらしい。 そして何故か、認可を受けた船以外は絶対に海洋性の魔獣に襲われ船を沈められる。 故にその存在は知られていても手が出せず、如何なる違法取引も罰せられる事の無い犯罪者の聖域と化しているのだとか。 更にその秘匿性と安全性を買われ、裏社会専用の巨大な銀行もあるみたいだ。 組織クラークは昏き者を利用して商船等を襲って金品や商品を奪い、 この街を違法取引等の犯罪行為の場として利用する者達から使用料を取って利益を出している。 これが、僕がこの街インスマスに着いてから2日間の間に仕入れた情報だ。 「帰ったよ、シルビアちゃん。」 「あ、サガさんお帰りなさい。」 灯台もと暗しとは本当に良く言ったものである。 昨日一晩中起きて街の様子を探っていたけど、クラークがこの街に入った僕達を探している様子は無かった。 やはり、まさか自分達の庭に僕達が来ているなんて夢にも思って無いのだろう。 お陰で髪を染めるだけの申し訳程度の変装だけで普通に出歩ける。 「サガさん、この後の予定は?」 「うーん、食材も買ったし特に出掛ける事も無いかな。」 あれから2日。 そう、2日だ。 2日経った今、僕達は潜伏を続けている。 敵の拠点で。 逃げ場の無いこの街で。 いつバレるかも分からない恐怖から目を背けながら。 だけど、僕達は待ち続けなければならない。 レオンさんが雇ってくれた協力者が来てくれるまで。 顔も名前も知らない協力者を待ち続けるのだ。
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