第零義 僕の物語

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「協力者の方は……………いつ頃来てくれるのでしょうか?」 「うーん、微妙だね。 でも、レオンさんが寄越してくれる人なら少ない手掛かりから僕達の居場所を割り出してくれるはず。 大丈夫、心配しなくても今週中には来てくれるって。」 不安に駆られるシルビアちゃんを励ましつつ、自分にそう言い聞かせる。 まやかしの希望だとしても、それに縋らなければプレッシャーで押し潰されてしまいそうなのだ。 夜。 シルビアちゃんが深い睡眠に入ったのを見計らい、宿を出る。 睡眠時間を削るのは賢い行為では無いけれど、眠れないのだ。 ベッドの中でじっとしていると、明日は何をすべきか。 どうやって協力者に僕達の存在を知らせるか。 そもそも本当に来てくれるのかと、不安ばかりが渦巻いて頭がパンクしそうになる。 どうせ眠れないならば、僅かな希望に賭け情報収集も兼ねて外に出る。 動いていれば、取り敢えず頭をその事に集中させられるから。 「今日は………………うん、行ってみよう。」 非合法の街と聞くと夜中の方が寧ろ騒がしいイメージがあるけど、実際は静かなものだ。 それは他の街では真夜中の隠れ家でしか行えない違法取引を、 この街では真っ昼間から堂々と出来るからだろう。 今も出歩いているのは酔っ払いと、賭博で負けて酒を煽りながら愚痴を言っている人くらいだ。 なので"お使い"の風を装っていれば誰にも咎められず、道を歩ける。 今夜僕が目指すのは、海賊らの船が並ぶ港。 ここ最近快晴でありながらも"海の調子"が悪いらしく、海に出られないと聞く。 時期的に見て、シルビアちゃんのお母さんが自殺し昏き者の制御権が失われたのが原因だろう。 「誰も…………………いないか。」 街の明かりから少し離れているため、乗員数百人規模の巨大な船も所狭しと並ぶ港はほぼ暗闇。 船番をしている者もおらず、寂しい程に静か。 並みの打ち寄せる音だけが響く。 「………………………戻ろう。」 誰もいないし、港に来た一番の目的である昏き者も見れる気配が無い。 収穫は無いが、漸く眠気が出て来たので帰路に着く。 溜め息と共にフッと気を緩めて。 「─────────ッ!!!?」 凶悪な獣に首筋を舐められたような、そんな殺気に襲われた。 ヤバい、この殺気はかなりの実力者特有のものだ。
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