第零義 僕の物語

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黒煙を割り、敵の顔が飛び出す。 その前歯には、見せ付けるように噛み止めた毒矢。 初めから読まれていたのだ。 僕の奥の手は。 僕が勝利を掴むための道筋は。 これが実力差。 小手先の技術や小賢しい真似の通じない、素人とプロの差。 頭の中が真っ白になる。 迫り来る大剣をどうにかして避けなければならないのは理解出来るけど、 危機感も沸かず次に何をどうすれば良いのかも分からない。 ただ呆然と、近寄る死を眺めるだけ。 死とは、何と呆気ないものだ。 「合格、流石はスターダストの弟子だ。」 ブォッ!!!!! と、直前で止められた大剣が風を巻き起こす。 巧みに寸止めされたので触れてはいないけど、拘束されていた体がその風に押されて尻餅を着いた。 「サガ・ニーベルヘルンだよな? 試すような真似をして悪かった、スターダストの弟子ってのがどんな奴なのか興味があってな。 少しばかしちょっかい出してみたくなったんだ、許せよ。」 手が差し出される。 どうやら腰を抜かした僕に立てと言ってくれているようだ。 折角なので、その手を借りる事にした。 「あの、もしかしてレオンさんが呼んでくれた助っ人の方ですか?」 「あぁ、ギブソン・アンバーって者だ。 《竜狩》のギブソンって言えば、何処の業界でも大体知ってくれてるんだけどな。」 「ギブソンさん………………あぁ、もやし同盟の。」 まだ駆け出しの無名で借金すら出来ず極貧生活を送っていた頃、 安売りされていたもやしに何度も救われた過去を共有する同業者だとレオンさんに聞いている。 この前もやし料理だけが記されたレシピ本が送られて来たが、多分送り主はこの人なのだろう。 「おっ、スターダストに聞いてたか。 もやし同盟の仲間だしな、弟子を頼むって直接頭を下げに来られたんじゃ断れねぇよ。」 「レオンさんが………………………」 まさかレオンさんが僕のために人に頭を下げてくれたなんて。 帰ったら御礼を言わないと。 「それにしても、よく僕達がこの街に来ていると分かりましたね。 僕達がここインスマスに行くのを決めたのはあの街を出た後だから、メッセージも何も残して無かったのに。」 「オレ達ハンターは僅かな痕跡を頼りに標的を探すからな。 あれだけ足跡を残してくれてりゃ十分なのよ。」
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