第零義 僕の物語

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ギブソンさんの言う通り、今後もレオンさんの弟子を続けていくのならば人殺しに対する罪の意識を薄れさせた方が僕のためにもなるだろう。 僕も既に何人も殺して来たが、それは必要に駆られたからだ。 間違っても、ついでに殺しておくかなんて人の命を軽視した事はしていない。 だがレオンさんは、この道を進むのならば納得のいかない胸糞悪い人殺しもしなければならないとも言っていた。 その際、罪の意識に囚われ躊躇ったら僕が殺される。 これは、そのための予行練習なのだろう。 「サガさん、大丈夫です………これは私の問題なのですから、私がやれる事は私がやるべきだと思います。」 「………………いや、僕がやるよ。 この件はレオンさんに任されてるし、これが終われば普通の女の子になれるシルビアちゃんにはさせられないからね。」 そうだ、シルビアちゃんは漸く普通の女の子になれるんだ。 戻れるんじゃなくて、なれる。 昏き者を使役するための道具から、いずれ素敵な旦那様を迎えるであろう普通の女の子に。 だから、僕がやらなければ。 明日からの活動はほぼギブソンさんにおんぶ抱っこなのだから、これくらいは僕が。 「ハァ……………………残り1発、か。」 工業都市カルタゴ副市長にして素材採取班班長 《千盾》のロア。 前人未踏の危険な地域での任務であっても誰一人として死人を出さず、 帰還率100%を誇る世界最高のハンターとの呼び声が高い彼女は今。 周りを完全に包囲され、残りは拳銃一発という死が秒読みの状況にあった。 何故こうなったのだろうか、と。 ロアは満身創痍で鉛のように重く熱を持った体を背中の木に預ける。 始まりはハンター協会から出された新種の海洋性魔獣の調査依頼だった。 今回も油断せず、僅かな情報から最大限の対策を講じて最高の装備で臨んだ。 が、予想以上に知能の高い新種の海洋性魔獣──昏き者に歴戦の素材採取班は敗北。 他の班員を逃すためにロアは自分一人だけが囮となって引き付け、結果的に昏き者の巣窟に踏み込んだ。 それから10日。 持参した武器と即席の武器に現地調達の食糧で生き延びたが、それもここまで。 後生大事に守って来た最後の銃弾。 これは死ぬ瞬間にせめて一匹道連れにしようという、勇ましい考えで残したのではない。 自殺用だ。
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