第零義 僕の物語

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何とも悍ましい事に、昏き者はあらゆる胎生生物の雌の生殖機能を利用して眷属を増やす。 つまり犬でも猫でも馬でも───そして、人間であっても。 性別が雌ならば、自らの子種を生殖器の中に注ぎ込み子供を孕ませる。 孕んだ雌は出産まで手厚く保護され、最後は産まれて来た昏き者に最初の餌として喰われる。 地獄だ。 化け物の子供を孕まされ、最後は生きたまま食べられるなんて。 その光景を実際に目の当たりにしたロアは体を震わせる。 男ならばその場で喰われるだけだが、女である自分は化け物の苗床にされるのだ。 まだ人間の男性とも交わった事の無い純潔を守って来た体を化け物に凌辱され、孕まされる。 今日程自分が女である事を呪った日は無い。 「………………ご免なさいお父さん、先に逝く不孝をお許し下さい。」 工業都市カルタゴを発展させるため日夜仕事に明け暮れながらも、 男手一つで自分を育ててくれた父親に謝りロアは拳銃をこめかみに向けた。 そして引き金に掛けた指に力を込める──その刹那、ふと想像する。 次の瞬間華麗に自分を助けに来てくれるヒーローを。 それは白馬に跨がった王子様…………のようなメルヘンチックな人物ではなく。 自分の力量不足を思い知らされたあの作戦で、尻拭いを押し付けてしまった人。 その人が……………きっと──────来る訳無いか、と。 自分の中に少女じみた気持ちが残っているのを自嘲し、意を決して引き金を引く───── 「ヘイヘイヘーイ、自殺するならオレの股間のマグナムでしてくんねぇかな!!!?」 のを、上から降って来たセクシャルハラスメントな発言に止められた。 銃声が重なって響く。 勿論、その音源はロアが自殺用に一発だけ残していた拳銃ではない。 『テメーの貧相なイチモツで女を殺せる訳無いだろうが。』 「力めば立派なちょっと黒ずんだフランクフルトだよ!!!!」 ロアに迫る透明な液体滴る触手を撃ち抜いたレオンハルトは、 庇うように前に立ち後ろ手に《千盾》仕様のマグナムを渡した。 「レ、レオンさ────────」 「話は後だ!!!! 先ずはこの包囲網を突破する!!!!」 右手は術符やその他の道具を使うため自由に。 左手に《血皇帝アスタロト》の禍々しい刃を形成した紅血剣を持ち、 レオンハルトは包囲網の一点突破を狙って駆け出す。
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