第零義 僕の物語

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化粧無しでも街中で見掛ければ話のネタになる小綺麗な美人だが、 今は10日間にも及ぶほぼ不眠不休の戦闘の疲れが顔色と目の下の隈に現れ不健康さが目立つ。 満身創痍、全身疲労。 手足指の欠損や骨折等大きな傷こそ負っていないものの、切り傷に内出血に青痣や腫れが至る所に見える。 どれも応急処置は済ませてあるが、やはり見ていて気持ちの良いものではない。 「レオンさん………素材採取班は、無事…ですか?」 喉を潤し、真っ先に出て来た言葉がそれだった。 自分の心配よりも他人の安否の方が気になるとは、根っからのお人好しだとレオンハルトは呆れる。 「あぁ、無事だ。 アンタが囮を引き受けて逃したおかげで、誰一人死人は出てない。」 「そう、ですか………………………良かった。」 良かったと言葉には出すものの、ロアの顔には疲れとは別の暗い陰が張り付いていた。 その陰に首を突っ込む程深い仲でも無いのでレオンハルトは敢えて聞こうとはしなかったが、 理由はロア本人の口から語られた。 「………………結局、私は無力な"女"なんですね。 親の七光りで成り上がったと言われるのが嫌で、誰をも納得させる成果を出すため必死でした。 男性に負けないように、女である事を責められないように…………………」 「疲れてるんだろ? 昏き者の動きが鈍くなる明日の昼にこの森からの脱出を試みる、もう休め。」 「小娘の道楽と仕事仲間にも影で罵られ、依頼人にはハンターとしてではなく女として好色の目で見られ。 それでも、頑張って来たんですよ。 結果を出して、尚且つ誰も死なせず。 そこまでして、漸く認められたんです。 認められたと思ったんです。」 貴方が来るまでは、と。 疲労で意識が微睡みの中にあるため、礼節を重んじる普段の彼女は裏に隠れ本音が表に出た攻撃的な口調になる。 「私と貴方とで、そこまで業績は変わらなかったはずなのに。 なのに、街の職人の評価は貴方の方が高かった。 私が取って来た素材よりも、貴方の送って来た物の方が喜ばれた。 素材採取班の班長である私ではなく、外部の人間である貴方の方があの街には必要とされていた。 貴方と私で、何が違うのか分からなかった。 ………………あの日、神獣の死体が送られて来るまでは。」 「こりゃ本格的に精神の方もヤバいな。 さっさと寝た方が良い、話なら起きた後にしよう。」
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