第零義 僕の物語

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しかし、止まらない。 長い間理性に抑圧され人当たりの良い笑顔の裏に押し込められていた本音は、今までの鬱憤を晴らすように次から次へと溢れ出る。 「………………あの時までは、正直私の方が上だとすら思っていました。 貴方は気紛れで自分が興味のある仕事しか受けないですし、 要求する報酬も相場に比べてかなり割高でしたから。 それに、確かに依頼の品をほぼ完璧な状態で用意するので料金が高いのにも納得はいきますが、 私達素材採取班だって負けていません…………はずです。 そう自分を言い聞かせ《疾風》にも劣らない……男性にも負けないハンターだと自負していた所に、あの神獣ですよ。 あの日私は厳島工房に依頼されていた大きな仕事を終え、 街の発展に大きく貢献出来ると一人達成感と期待に満ちていました。 でも、貴方が有用な活用法が分からないからと言って送って来た神獣の死体のせいで街はそれ一色になった。 本当は私が称賛を浴びるはずだったのに、全部持っていかれたんですよ。 私の仕事の成果なんて、誰も眼中に無かった。 誰もが世界に1体だけの獣の死体に夢中で、目を輝かせていた。 各工房の親方も、私の他の副市長もお父さんも……………そして、私の部下である素材採取班の仲間も。 その時初めて、私は貴方に負けたのだと……貴方より劣っているのだと知った。 いえ、認めたんです。 多分心の奥底では分かっていたけど、目の前で見せ付けられて認めざるを得なかったんです。」 まだ止まらない。 レオンハルトから貰った水筒の中身を喉に流し込み、続きを紡ぐ。 「負けた、劣っている、こんなにも努力しているのに。 私の居場所なのに、貴方を望む声の方が大きい。 悔しかったですよ、苦しかったですよ。 こんな事誰にも言えなくて、仲間に心配されても少し体調が悪いだけと嘘を付きました。 どうしたら良いのか分からなくて、悩んで……………だから、神獣序列27位 《刃蜥蜴サザング》の討伐に貴方を呼ぶと言う話が挙がった時はチャンスだと思ったんです。 これで私の方がより多くの成果を上げれば、私の方が上であると認められるはずでしたから。 勝つために研究して、入念な作戦を立てて…………私の方が目立つように、仕留めるチャンスが多く得られるように貴方の配置を下げて。 そこまでして、卑怯な手まで使って…………それであの結果ですよ。」
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