第零義 僕の物語

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沈黙。 重い沈黙。 ひたすらに沈黙。 自分を支え歩かせる芯を折られた者と、知らずの内に折ってしまった者。 2人の間に会話は無く、無言のまま重苦しいだけの空気が漂う。 そんな静寂を破ったのは、外から聞こえて来た雨音だった。 初めの内は小降りだったが次第にバケツの中身を引っくり返したような土砂降りとなり、ジメッと巣穴の中の湿気が高まる。 滝のような雨に、失望が洗い流されたのだろうか。 攻撃的な棘の抜けた声で、レオンハルトから話し掛けた。 「…………………なぁ《千盾》」 「今はその名で呼ばないで下さい………出来れば、ロアと。」 「ならロア、一つ聞かせて欲しい。」 何でしょう、と。 少しの間を空けて、消極的ではあるがロアは質問に回答する意思を示した。 「アンタさ、夢は見るか?」 「夢………ですか? それならば、浅い眠りの時に…………………」 「違う違う、寝てる時に見る夢じゃない。 人が明日を生きるために必要な希望だよ。 金持ちになって美人に囲まれたいとか、有名になって騒がれたいとか。 物書きになって自分の本を出したいとか、学者として大成したいとか。 何でも良いんだ。 高尚でも低俗でも、他人には言えないような恥ずかしいものであっても。 これがあるから死ねない、生きていたいと思える夢はあるか?」 「わ、私にも────────」 「無いんだろ、アンタには。 こうなりたいって言う自分が。 理想の自分、輝かしい自分がアンタの中には無いんだ。」 「勝手に決め付けないで下さい。 私にも、夢くらい…………………………」 「夢くらいなんて言ってる時点でもう無いのが丸分かりだ。 アンタには夢が無い。 夢見る自分がいない。 ………………あぁ、多分少し前まではあったんだ。 でもアンタはそれを叶えたんだ。 いや、叶えてしまったと言う方が正しいか。 女である自分では考えられなかった夢。 世界最高のハンターになる、って所か。」 「─────────ッ!!!?」 図星。 自分の夢──だった過去の願いを言い当てられたロアは、言葉を詰まらせ視線を逸らす。 「アンタは必死の努力の末に夢を叶えたんだ。 そこで、次の夢を見付けられたら良かったんだけどな。 だがアンタは見付けられなかった。 《千盾》は次の夢を見るよりも、叶えてしまった夢を守る事に執着してしまった………そうだろ?」
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