第零義 僕の物語

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《千盾》 就任時からそれまで誰も成功し得なかった最高難度の試みも含め、作戦成功率100%。 尚且つ帰還率100%を誇る奇跡のハンター集団、工業都市カルタゴ素材採取班班長 《千盾》のロア。 工業都市カルタゴが大国に匹敵する程の経済力を得たのは彼女の貢献が大きく、 また彼女が確立した安全且つ確実なハンティング法は全世界のハンターが先ず学ぶべきものとなった。 名実共に世界最高のハンターと、多くの者にそう評価された。 認められた。 長年の夢の成就に、ロアはこの上無い至福と達成感を得た。 しかし、それもほんの一時。 直ぐに世界最高の座を失う恐怖に襲われた。 故に向上ではなく、現状維持の保身に走った。 それが数々の難業を成し遂げて来た《千盾》の停滞。 「ええ、貴方の言う通りかもしれません。 私は世界最高のハンターで在りたかった。 ずっとそう言われ続けたかった。 …………それが、いけなかったんですね。 まだ見習いだったあの頃のように純粋に仕事を楽しんでいれば、そんな醜い感情は沸かなかったのに。 こうならずに、済んだのに………………」 「そうだな。 別にオレは自分を特別優れた人間とは思って無いけど、保身に走ったアンタには負ける気がしないな。」 「ですね。 この業界で安定を求めたら、そこが終着点です。 その先にあるのは永遠に変わらない水平線……いえ、緩やかな下り坂ですかね。」 「あぁ、夢を叶える前のアンタみたいに上を目指して登り続ける奴には直ぐに追い抜かれるさ。」 胸に痛かった。 その言葉は。 少し前の自分に負けていると、そう言われてるのと同じであったから。 だから、知りたくなった。 自分の上を行き、その程度では足りないと進み続けるレオンハルトの行動の根底にある夢を。 「レオンさん、貴方の夢を…………聞いても良いですか?」 「興味、あるのか?」 「ええ、それは勿論。 救世主とも言われる貴方が、何を願って明日を生きようとするのか。 興味が無いはずがないでしょう?」 夢。 それは余り人に言うものではないが、ここまで偉そうに御高説垂れて言わない訳にもいかない。 レオンハルトは天井を見上げ、 「…………………あの人に会って、一言だけで良いから話がしたいんだ。」 「あの人、とは?」 レオンハルトは一拍の間を空け、明かす。 その者の名を。 「星屑幸人。 オレに世界の広さを教えてくれた冒険家だ。」
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