第零義 僕の物語

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シルビアちゃんの後に続いて僕も結界の階段を上り、また同じ物を作ってクラーク本拠地の庭に降りる。 そして先行していたギブソンさんの合図を待ち、一気に駆け抜ける。 「(……サガ、やれ。……)」 窓ガラスにテープを張り付け、そこを金属製のロッドで叩き割り鍵を開け屋敷への侵入を果たす。 情報通り、夜間の警備は少ない。 この街でクラークに手を出せばどうなるのか、それは悪人が一番よく理解している。 だからこそ、最小限。 警戒はしているぞと、一応の体面を保つため義務的にやっているだけだ。 「(……静かだな。……)」 「(……ええ、流石にやる気が無いのにも程がありますね。 これならば、直前まで各状況に対しての対処法を頭に叩き込んでおく必要も無かったですよ。……)」 「(……そうじゃない、静か過ぎるんだ。……)」 確かに、言われてみれば数百人単位が常駐している屋敷にしては静か過ぎる。 全員寝ているのだとしても、ここまで人気が無いのは妙だ。 不自然だ。 有り得ないと言っても、多分間違いは無い。 「(……嫌な予感がします、急ぎましょうギブソンさん。……)」 嫌な予感がする。 あぁ、これは凄く嫌な予感だ。 メルフィス王国の時程確信的なものでは無いけど、多分この先でギブソンさんも想定していなかった事態が起きている。 事態は悪い方向へ全力で滑っている。 レオンさんは言っていた。 嫌な予感。 これは思い込みとかオカルト的なものでも数値化出来る具体的なものでもなく、 化物とか惨劇とか好ましくないものが発する負の波動のようなものを感覚的に捉えているのだと。 だからこそ、非常に残念な事に悪い予感とはいつも的中してしまうのだ。 「───────何、アレ……………………」 曲がり角の先にある、シルビアちゃんのお父さんの寝室。 その扉の向かいの壁に、2人の男が壁に寄り掛かって座り込んでいた。 いや、違う。 あれは………………………… 「シルビアちゃん、見ちゃ駄目。」 通路は薄暗くてパッと見分からないが、よくよく目を凝らせば見えてしまう。 喉笛を掻き切られ、服を深紅に染めた男2人の死体が。 万が一にも見えないようにシルビアちゃんの目を手で覆い、頷いてギブソンさんに確かめてもらう。 「この見通しの良い通路で、直前まで気付かせず2人ほぼ同時に一撃…………これは相当の手練れだ。」
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