第零義 僕の物語

48/118

30227人が本棚に入れています
本棚に追加
/786ページ
相当の手練れ…………恐らく英雄の中でも上位に食い込む実力者であるギブソンさんにそこまで言わせるとは、 僕達よりも先に屋敷へ侵入していたその人物は敵に回ればかなり厄介な相手になるだろう。 僕とシルビアちゃん、お荷物2人を気にかけている余裕は無いかもしれない。 「オオッ─────────!!!!」 殺られた2人の傷口を観察し終えたギブソンさんは扉の前に立ち、 一呼吸置いて背中の大剣を抜くと同時に扉を蹴破った。 英雄の脚力で蹴破られた扉は蝶番ごと外れて部屋の中へ砲弾のように飛んでいき、 それに続いてギブソンさんも踏み込む。 あわよくば蹴飛ばした扉で倒し、避けられたとしてもそちらに注意を向かせ最速の一撃で叩き伏せる。 相手に実力を発揮させず、勝負を一瞬で決める作戦。 実に効率的。 ハンターらしい考え方だ。 拳銃を抜き、背中を壁に押し付けギブソンさんが部屋を制圧するのを待つ。 一応部屋の中の状況が分かるように少しだけ顔を覗かせ、 「─────────ッ!!!?」 高速の影が目の前を通り過ぎて行った。 風に押され、倒れそうになる。 「な、何だあれは…………………………」 影の正体は、部屋の中へ突入したはずのギブソンさんだった。 あの一瞬で何があったのか。 ギブソンさんの首筋には大量の汗が伝い、体も震えている。 おまけに、だ。 多分無意識の内の行動だが、ジリジリと足を下げている。 それは戦略的なものではない。 怖いものから逃げようという、人間の本能に直結した動きだ。 「逃げろ…………シルビアを連れて早く逃げろォッ!!!!! オレでも何秒抑えられるか分かんねぇぞ!!!!」 言っている事とやっている事が違う。 ギブソンさんの息は荒く動悸がこちらにも聞こえて来そうな勢いで、 ジリジリと下がり続け次の瞬間僕とシルビアちゃんを置いて全力で逃げ出しても不思議ではない面持ち。 ギブソンさんにそこまで言わせるとは、一体何者なのか。 一刻も早く逃げなければならないという理性よりも、好奇心の方が勝ってしまった。 「ん、あれは………………………」 趣味の悪いフルフェイスのヘルメット。 全身を包む黒のロングコート。 古びた鞘に納められた剣と、華美な装飾が施された脇差し。 「何やってんだ馬鹿!!!! 早く逃げろって言っただろうが!!!!」
/786ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30227人が本棚に入れています
本棚に追加