第零義 僕の物語

53/118

30227人が本棚に入れています
本棚に追加
/786ページ
触手の下に隠れた、鋭い牙の生え並ぶ腮が大きく開かれる。 狙いは柔らかい首筋の肉。 ギブソンさんは進路を確保するために先頭に立ち昏き者を複数相手取ってるし、 レオンさんは後ろから来る昏き者の迎撃に当たっている。 「クソッ、殺られて────────」 首を噛み千切られるくらいならば、腕を犠牲にする。 昏き者が腮を開くのに合わせて左腕を首の前に持っていき、それと引き換えに右手の拳銃で撃ち殺してやる。 その覚悟でいたが、 「魔獣相手に気を抜くなサガ、死ぬぞ。」 腮が閉ざされるその瞬間、僕と昏き者の間に剣が滑り込み真横に閃く。 昏き者の顔面は上顎と下顎を境にまるで豆腐かゼリーのように両断され、 勢い余って体当たりのようにのしかかって来る死体をレオンさんは横から蹴り飛ばした。 「あ、ありが───────レオンさん後ろ!!!!」 レオンさんの背後から、複数の昏き者が同時に牙を剥き飛び掛かる。 「構えてろ、死にたくなけりゃな。」 レオンさんは昏き者へ背を向けたまま走り、脇差しを抜いて二刀流の構え。 そして少し屈んで昏き者の下に潜り込み、脇差しを上に向けて急所に突き立てる。 続けて振り向きもせず昏き者の振るった爪を避け、返し刀で隙を晒した首を刎ねた。 「レオン、さん─────────?」 昏き者の身体能力は人間より遥かに高い。 一跳びで数mは飛び上がり、数十mのハンデが有っても直ぐに追い付かれる。 反応速度だって、その身体能力に見合ったものだ。 だと言うのに、何だあれは。 レオンさんは普通の人間のはずなのに、何故か昏き者が止まって見える。 違う、止まって見えるんじゃない。 昏き者が動けていない。 激しい緩急で視界から姿を消し、探している間に一太刀。 複数の昏き者に同時に絶好の攻撃のチャンスを与える事で仲間同士の衝突を誘発し、 動きが止まった所を纏めて鋭い剣閃で仕留める。 と、そこまでならば培った経験による技術で説明出来る。 だが、見もせず複数の昏き者の次の次の行動まで把握して予め動いているのはどういう訳か。 予備動作すら始まっていないのに。 あれではまるで未来を先読みしているようではないか。 それに、あの剣術。 本人曰く剣はあくまで武器の一つであって得意でも何でも無いそうだが、嘘も大概にするべきだ。
/786ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30227人が本棚に入れています
本棚に追加