第零義 僕の物語

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素人目でも分かる。 レオンさんの使う剣術は、最早達人の領域をも通り越して神業の極地にまで足を踏み入れている。 その剣は決して速くない。 英雄であるギブソンさんを比較対象として横に並べてしまうと、激しく見劣りする。 普通の人間にしては速い方だとは思うが、僕でも目で追える程度だ。 断じて人間の限界を超えたような動きではない。 にも関わらず、一薙ぎで複数の昏き者を斬り伏せる。 柔らかい急所のみを切り裂いているのではなく、両断。 音速の銃弾でさえ至近距離で無ければ貫けない弾力のある皮膚と骨を纏めて。 まるで昏き者が豆腐かゼリーであるかのように易々と。 「────────────、」 僕達の先頭を行くギブソンさんも集中し切れていない。 隙を伺っては、振り向いてレオンさんを盗み見ている。 拳銃で離れた所から昏き者を狙う僕よりも、大剣で直接触れて攻撃するギブソンさんの方がその異常性を理解出来るのだろう。 レオンさんに向けられる目は、まるで人の皮を被った化け物を見るようなものだった。 「縛。」 厨房の油に引火でもしたのか、近くの店から爆発と共に炎が上がる。 炎は熱気で頬を焦がす所まで来たが、レオンさんは動じず爆発に乗じて追ってくる昏き者に何かを投げた。 『グギィッ!!!!』 『ギァッ!!!!』 「な、何が…………………………?」 昏き者の動きが止まる。 いや、止められた。 僕達を追っていた昏き者が、糸で地面に縫い付けられたかのように行動を封じられた。 「振り返る暇があるなら足を動かせ。」 何らかの方法で昏き者の動きを止めたレオンさんは僕を追い抜かし、 昏き者の数と頑丈さと執念深さに苦戦していたギブソンさんの援護に入る。 スルリと横から滑り込み、大剣の大振りで隙を晒したギブソンさんへ飛び掛かった昏き者を一刀両断。 そこから一気に踏み込み、昏き者の集団に飛び込んだ。 「馬鹿、スターダスト!!!?」 勇み足が過ぎたレオンさんのフォローに回ろうとしたギブソンさんの道を塞ぐように、2体の昏き者が襲い掛かる。 それにより、レオンさんは前後左右全ての方向から敵に囲まれる状況に陥った。 「クソッ─────サガ!!!!」 「いや、これは────────」 2体の昏き者に阻まれ動けない自分の代わりに、拳銃で援護しろ。
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