第零義 僕の物語

56/118

30227人が本棚に入れています
本棚に追加
/786ページ
レオンさんにとって、あの数秒間の交錯の結果は奇跡でも何でもない。 文章にすれば、襲われたから返り討ちにしただけと一行で終わる程度の出来事。 「あ、あぁ…………………………」 「い、行こうかシルビアちゃん。」 本人も言っているが、レオンさんは剣士ではない。 あの神懸かった剣技で剣士ですら無いとはどんな皮肉だとレオンさんを知らない人は言うと思うが、 それでもやはり剣士とは呼べない。 槍でも弓でも斧でも鎌でも普通の人間の筋力で扱える限り武器に分類される物は何でも使うし、 他にも毒や火薬や酸等の危険物も自分で調合して活用する。 更に全身に仕込んだ暗器──小刀や針にワイヤー等に加え道端の小石までもが武器となり罠となり、 そして合図を送るだけで特定の現象を引き起こす符術も使う。 一つ一つの技の完成度はその道の達人と比べれば御粗末なものだけれど、 ある程度のレベルの技を複数組み合わせる事で無限に近い攻撃のバリエーションが生まれる。 何処からどんな攻撃が飛び出すか分からない。 一方に集中していたら別の所から奇襲が来る。 当たれば必ず殺せる必殺の剣すら躊躇い無く囮として利用し、必要とあらば平然と捨てる。 嵐に掻き乱される雲より激しく変化し続けるため、常に先手を走る。 無限の選択肢。 それがレオンさんの最大の強味。 だけど、逆に言えば武器を一つに制限されると選択肢の幅が狭くなり相手にも対応されてしまう…………と。 そう思っていた。 だけど、違った。 レオンさんは………レオンハルト・スターダストは、剣だけでも大量の魔獣相手に闘える人だったのだ。 あの剣技に更に他の武器や符術に神滅砲という兵器が加わるのだから、 救世主と呼ばれるのも………実際に何度も世界を救ったのも頷ける。 恐ろしい。 今になって恐くなって来た。 あの日、炎に包まれたアースガルズで僕に銃口を向けた人は。 興味深いと言ってこの世界に連れて来た人は。 僕の……………師匠は。 雷とか光線とかそう言う分かり易い力が無いだけで、 本質的には神獣や神話の悪魔等と変わらない化け物だったのだ。 「スターダスト!! 方向的に港に向かってるが、この方向で間違って無いんだな!!? 昏き者が次々と出て来る海に向かって良いんだな!!?」 ギブソンさんは叫び、前を走るレオンさんに尋ねる。
/786ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30227人が本棚に入れています
本棚に追加