第零義 僕の物語

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何でですか、と。 そう尋ねようとしたその時、眼下の海が大きく動いた。 「な──────────ッ!!!?」 それは明らかに自然現象では無かった。 普通波とは海側から陸側へ打ち寄せるものだが、海全体が真横に動いた。 島一つ簡単に押し流せそうな数十m級の大波が、海で待機していた昏き者を一掃する。 悲痛な悲鳴が夜の海に木霊し、海の荒れ狂う音がそれを掻き消す。 「遅刻だぞ。」 「……………………貴様が婆様の予言した救い主でなければ、死ぬまで水を飲ませ続けていた所だ。 知ってるか、水でも20Lも飲めば人間は水中毒で死ぬのだぞ?」 数十m級の大波から少量の水が独立して飛び出し、僕達の近くに落ちて来た。 レオンさんが話しかけるとその水は色付き形を成し、僕達を助けてくれたエルフのお姉さんに変わった。 「勘弁してくれ。 水精霊の召喚士がそれを言うと冗談に聞こえねぇよ。」 「誰が冗談と言った、半分以上本気だ。 …………………まあ良い、取り敢えず適当な船に乗れ。 一度里に戻るとしよう。」 「船って…………………………」 大丈夫なのだろうか。 確かに昏き者の大部分はさっきの大波で流されたけど、海は昏き者の独壇場。 船なんかで海に出たら格好の餌食だ。 「突っ立ってないで早く行こうぜ?」 だがレオンさんは特に迷いも躊躇いもせず、丁度5人くらいが乗れるボートに飛び乗った。 そして運悪く着地点にあった海鼠を踏んで盛大に足を滑らせ、 芸術的な弧を描いてボートの縁に後頭部を強打した。 チーンと、口から魂が抜けていったように見えた。 仕事時以外のレオンさんって、基本的に格好悪いんだよね。 「じゃあオレ達も………行くか?」 「行き…………ましょうか?」 魂が抜けたレオンさんを退かし、船に乗り込む。 僕達4人(内一人死亡)が乗り込んだのを見計らい、エルフのお姉さんは色と形を失い水となって海の中に潜り込んだ。 すると風を受ける帆も無いボートが波に逆らって海の方へ動き出し、結構な速さで海の上を駆ける。 「これなら昏き者も振り切れそうですね。」 「サガ、下。」 気付かぬ内に復活を果たしていたレオンさんに言われて海中を覗き込むと、 僕達のボートに並走して走る鋭い眼光が見えた。 「レオンさん!!!!」 「心配すんな、召喚士様がどうにかしてくれるさ。」
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