第零義 僕の物語

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関わらなければ、多分この後はバゲットサンドを作って食べる日常会になっただろう。 しかし、僕は見過ごせなかった。 「………………あそこに、如何にも事件性のありそうな女の子がいるのですが。」 顔を隠すように、深く被ったフード。 何日も取り替えていないらしく、汚れが目立つ服。 手足には細かな擦り傷や切り傷。 かなりの距離を走ったらしく、最早靴は靴としての機能を果たせない物になっている。 ここからでは顔は見えないが、体のライン的に小柄で細い女の子が路地の陰に隠れ壁に寄り掛かって座り込んでいたのだ。 その様は、疲れたらちょっと一休みというようなものではない。 必死にここまで逃げて来たけれど、もうこれ以上は逃げられないという悲観に溢れた空気を纏っていた。 「……………………サガ、今お前が何を考えているのかわざわざ聞かなくても分かる。 分かった上で師匠として忠告をくれてやる。 止めるんだ、オレ達のような今日この日を生き抜くのに精一杯な余裕の無い人間が他人を救おうだなんて烏滸がましい考えを持ってはいけない。 そう言うのは困った人を助けるのが趣味の正義感強いヒーローに任せておくんだ。 下手にオレ達が関わると余計に酷くなるかもしれん。」 「レオンさん、多分もう遅いです。 あの女の子が視界に入った瞬間から僕達は既に巻き込まれてるんですよ。」 背後から迫る多数の足音と怒声。 まるで僕達が来るのを初めから待ち構えていたかのようなタイミング。 「……………………サガ、オレ達は日の当たらない場所を歩く日陰虫だ。 意識を自分の中に閉じ込めろ、周囲の空気に溶け込み自然と一体化するんだ。」 スゥ、と。 レオンさんの存在感が薄れ、道端に転がる小石のように周囲の景色と同化した。 これならば、例え擦れ違ったとしても意識されず見過ごされたはず。 …………………もう少し早く、標的にされる前にやっていればの話だけど。 「チッ、あの2人はどうする!?」 「構わねぇ、ブッ殺せ!!!」 いつも突然やって来る不幸は言い訳もさせてくれないのだ。 「サガ、逃げ────────」 「走って!!!!」 座り込んでいた女の子の手を掴み、無理矢理引き起こして走り出す。 しかし女の子はこの時点で体力がほぼ限界であったようで、足の回転が追い付いていない。 「レオンさん!!」
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