第零義 僕の物語

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心配するなと言われても、昏き者にボートの下という僕達にとって最悪の場所に位置取られたこの現状ではそれは無理がある。 と言うか、単純に怖いし。 夜の海に幾つもの眼光が光ってたら普通怖いし。 「ほら召喚士様、もっと速く運べってサガが文句を言ってるぞ。 でも揺らすなよ、揺らしたら酔ってお前の体にゲロリバースト喰らわせるからな。」 傍若無人なレオンさんが船のそう言ってガンガンと船の床を蹴ると、 『煩い黙れ、少しは手伝え!!!! こっちは海流を操りながらお前らを運んで、尚且つ何十体もの昏き者を遠ざけ防いでいるんだぞ!!!? ネピュラス様の力が弱まっている今、これ以上はキャパオーバーだ!!!!』 「よーし、じゃあオレもキラキラ光る物を吐いて援護するわ。」 待ってろよーと、レオンさんは指を喉奥に突っ込んで胃の中の物を逆流させようとする。 本気でやりかねないレオンさんの勢いに屈したらしいエルフのお姉さんの尽力により、 周りの波は高く速度も結構出ているのにボートは全くと言って良い程揺れず気持ち悪くならない。 運ばれる立場にありながらエルフのお姉さんの弱味を握ったレオンさんは盛大にふんぞり返り、足を組んで命令する。 「さて、このまま皇室の馬車を引く業者のように最高級のおもてなしで快適な海の旅を届けてくれたまえ。 あぁ、海の旅と言うからにはやはり新鮮な海の幸が欠かせないな。 不本意だが捌くのはこっちでやってやるから良さそうな魚を一匹寄越せ。」 『昏き者だったら幾らでもくれてやれるんだけどな!!!!』 「反抗的な声で気持ち悪くなってしまった、やっぱり吐くわ。」 嗚呼、エルフのお姉さんの声にならない悲鳴が聞こえるようだ。 嘔吐する気満々のレオンさんに泣く泣く従わざるを得ず、一匹の魚が海中から跳ね上がりボートに着地した。 それをレオンさんは手際良く〆て捌き、あっという間に刺身の盛り合わせが完成。 「おい、レオンハルト……………………………」 流石にこの最高にふざけた空気に堪え切れ無くなったらしいギブソンさんが、 戦闘時のような真剣な面持ちでレオンさんに物申す。 良いぞ、言ってやれ。 刺身の盛り合わせなんて作ってる暇があるならエルフのお姉さんを手伝えって!! 「醤油とワサビはあるんだな?」 「当たり前だ、最高級の刺身醤油に今鮫の皮で下ろしたばかりの最高のワサビを用意してある。」
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