第零義 僕の物語

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レオンさんとギブソンさんは互いに言葉も不要な歴戦の戦友のようにニヒルな顔で拳を突き合わせ、 何処から杯と徳利(とっくり)を出したのか早速酒盛りを始めてしまった。 まだピチピチと跳ねる活け作りは大変歯応えが良くまた魚特有の臭みすら無さそうで、 それがまた鮫皮で下ろされた極め細やかなワサビとも絶妙に…………って違う。 何を悠長に活け作りの解説なんてしてるんだ僕は。 確かに10分程前までは海で泳いでいたこれ以上無い新鮮度の鯛の活け作りなんて絶対美味しいに決まってるけど、 少し間違えば一秒後には僕達が生きたまま貪り喰らわれそうな状況なのだ。 活け作りを肴に酒盛りで馬鹿騒ぎしていられる余裕なんて無いはずだ。 「馬鹿かアンタ等は!!!? 分かってる、この状況分かってるんだよね!!!? 下手したら僕らがその鯛みたいに食べられるんだからな!!!! 少しでもお姉さんの負担が軽くなるように手伝おうと思わないの!!!?」 敬語なんて使っている余裕は無かった。 それ程までに、切迫した状況なのだ。 そして僕が言ってるのは正論だ。 多分この状況を客観的に見てもらえば、100人中99人が僕の方が正しいと言ってくれるだろう。 だが、僕の目の前にいるのは100人の中の捻りに捻くれた1人だった。 「何言ってんだお前? 基本的にオレは無能だぞ? 無能が有能に頼って何が悪い。」 「そーだそーだ!」 「ギブソンさん、少なくとも貴方は有能な英雄でしょうが!!」 「海中の敵に攻撃する術なんて持ってねぇよ。」 「レオンさんは道具とかで何かしら援護は出来ますよね!!!?」 「オレは無能なのに毎日死ぬ想いで頑張ってんだ。 こういう時くらい有能な奴に乗っかって楽して良いんだよ。」 「でもお姉さん一杯一杯な感じですけど!!!?」 「人間死ぬ気になりゃ出来ない事なんて無いんだよ。 オレを見ろ、オレみたいな無能でも神獣とか化け物を相手にしても生き残れてるんだぞ。」 「そうさ、そいつが設定した限界なんて限界とは程遠い立ったら頭がぶつかるような天井なんだよ。 その限界を超えた時、人は更なる成長を果たすんだ。」 「顔赤くして酒臭い息吐きながら言ってもカッコ付かないからね!!!!」 本当に残念だよこの人達。 最高にカッコ良くなれる素質は十分にあるのに、全部自分達で駄目にしてるよ。
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