第零義 僕の物語

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ボートから降り、自分達だけ先にさっさと集落の方に行ってしまった。 未成年のシルビアちゃんを御酌役に連れて。 「はぁ…………………お姉さんがガツンと強く言わないから、あの人達も調子に乗るんですよ?」 「ヴィオレッタだ。 あの傍若無人ぶりに一言言ってやりたいのは山々だが、非常に残念ながら彼には一生足を向けて寝られない程の恩を受けている。 彼にやれと言われたら、私達エルフの里の者は余程の事ではない限り逆らえんのだ。」 「お姉さん………ヴィオレッタさんだけじゃなくて、エルフの里の人達もですか?」 「あぁ、私が彼を里に連れ帰る数日前に昏き者が大挙して海流結界を突破してな。 里の者は一ヶ所に集まり結界を張っていたがそれも破壊され、地獄と化す………所だった。」 「でも、そうはならなかった。」 「昏き者が上陸して結界を破壊しようとしている時私達は大分遠くにいたのだが、 彼がどうやってか里の異変を察知してな。 私の能力で空間転位して最後の結界が壊される寸前に里に戻り……………あとは君も彼の弟子だ、言わなくても分かるだろう?」 「全部レオンさんが斬り殺したんですね?」 「ほぼ彼一人で、私達を気遣う余裕さえ見せてな。 おかげで死人は勿論、怪我人すら出なかったよ。 今展開されている海流結界も彼の助言を受けて改良されたものでな、あれ以来昏き者は姿を見せていない。 絶対に本人の前では言いたく無いが、大した人物だよ。」 「あの滅茶苦茶な性格が無くてもう少し器用だったら、 今頃大国の王か救世主として世界中から尊敬の念を集めているであろう人ですからね。」 本当に勿体無い。 自分で自分の価値を貶めてるのだから。 まあ、それこそレオンさんなんだけどね。 「少し言うタイミングが遅くなったが…………ようこそ、エルフの里へ。 我らが恩人とその同胞…………と言っても今は君しかいないが、歓迎しよう。 君達人間の大都市のように文明的な所ではないが、水の精霊王ネピュラス様と共に在る美しい里だ。 直ぐにまた外に出る事になるだろうが、それまではゆっくりしていってくれ。」 秘境中の秘境、夢幻とまで言われるエルフの里に僕達はこのような形で訪れたのだった。 「………………昨日飲み過ぎて正直起きてるのキツいんだが、サガ君が煩いので状況を整理しようと思います。」
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