第零義 僕の物語

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「………………サー、グロッキーサー。 バケツは一人一つ用意してあるから、安心して貰いゲ──────ップ!!!!」 そのまま暫くお待ち下さいと風景絵のテロップが差し込まれそうな最悪の絵柄と音が流れ、 コップ一杯の水を挟みレオンさんが貰いゲロして漸く話し合いが再開された。 「───────と、これが僕達の集めた情報の全てですね。」 「まぁ、お互い掴んだ情報は似たようなもんか。 何か聞きたい事………………疑問或いは矛盾、もしくは不可解な点はあるか?」 「じゃあ僕から一つ………………昏き者って何なんですか? 世間的には新種の海洋性魔獣と言う認識で僕も実際に見るまではそう思っていたんですけど、 あれがまともな魔獣とは…………いや、魔獣ですら無い気がするんですよ。 魔獣と言うか、何と言うか…………非常に感覚的で申し訳無いんですけど。」 そこまで厳密ではないが、一応魔獣にもハンター協会の定めた定義のようなものがある。 その定義に依れば、魔獣とは同盟諸国連合加盟国基準の正規軍一個中隊で討伐出来ない戦闘能力を有する個体(或いは種族)を指すそうだ。 特殊な例もあるが、大体はそれに当て嵌まるモンスターを魔獣と呼ぶ。 そしてもう一つ、魔獣には大きな特徴がある。 それは個体数が少なく、基本的に群ではなく一匹で生きるというものだ。 一匹でも生きて行ける強さを与えられているから、弱者のように群れない。 それが魔獣。 知識としてそれは間違っていないし、レオンさんに連れられて目にして来た魔獣はそうだった。 だけど、昏き者は魔獣の定義から大きく外れている。 魔獣は徹底的に"個"であるのに対して、昏き者は"群"が一つの"個"であるかのような。 「悪くない観察眼だ、あれは新種の海洋性魔獣なんかじゃない。 詳しい事は…………ヴィオレッタ、お前から説明してやれ。」 「あぁ、君の言う通り昏き者は魔獣ではないよ。 あれはどちらかと言うと、蟻や蜂に近い生き物だ。 己の命よりも集団としての目的を優先し、必要とあらば平気で自分を捨て駒にする。 更に繁殖には他の種の雌を用いるという最低最悪の害虫さ。」 「男ならその場で殺され喰われるだけだが、女だったら凌辱され尊厳を奪われ苗床とされる。 異種姦が喜ばれるのは薄い本の中だけだ、現実に起きたらただただ気持ち悪いだけだろうよ。」
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