第零義 僕の物語

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僕とギブソンさんとシルビアちゃんに加えて、同盟諸国連合への報告にはヴィオレッタさんも同行する。 どうやら今回の件を機会に、同盟諸国連合と友好関係を築きたいというエルフの里の総意を伝えるそうだ。 高い身体能力だけではなく、戦術も駆使して闘う最高峰の英雄であるギブソンさん。 召喚士と言う、精霊をこの世界に呼び出せる1億人に1人の才能を与えられたヴィオレッタさん。 本人は非力だが、ある呪文さえ分かれば昏き者という強力な魔獣を意のままに操れる巫女であるシルビアちゃん。 そして小道具無しには野良犬にさえ余裕で負ける、従軍経験1年未満の元兵士にして見習い符術使いの僕。 ………………こうして比較してみると、僕だけショボい。 他の人達のスター性が強過ぎて場違い感がある。 繰り返すが、多分僕が一緒に行く必要は絶対に無い。 「そうですよ、サガさんは私のナイトなのですから。 最後まで守って貰わないと。」 お願いしますね、と。 シルビアちゃんは僕の腕に抱き着き、肩越しに上目を遣う。 レオンさんの所に戻りたい気持ち純度100%だが、女の子にそんな風に頼まれたら断れるものではない。 心の中の僕を突き放し、快諾するしか無かった。 「カポカポカポカポ、っと。」 気持ちの良い昼下がり、暢気に馬車に揺られて街道を行く。 シルビアちゃんを護るナイトとして気を引き締めていたのも、出発後30分まで。 30分も経つと一人真面目に辺りを警戒しているのも馬鹿らしくなり、 ギブソンさんが飽きて捨てようとした帝国の新聞を貰って読み始めた。 50年間封鎖されていた海路の復活を取り扱った一面を一字一句追い、 国内外の経済について記された記事や帝国内で起きた事件の記事を流し読み。 そして前回までの粗筋すら知らない新聞小説まで読み、また手持ち無沙汰な時間に戻る。 「暇。」 暇だ。 やる事が無い。 これ程暇だと分かっていれば、小説か図鑑でもレオンさんに借りたのに。 「暇そうだな。」 「そう思うなら話し相手になって下さいよ。 暇過ぎて解脱しそうです。」 「ま、頑張れやナイト様。 オレは昼寝するから安全運転で送り届けてくれよ?」 暇だと知りながら暇潰しに付き合ってもくれず、ギブソンさんはゴロンと転がり大剣を枕に優雅に昼寝を決め込んでしまう。
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