第零義 僕の物語

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ヴィオレッタさんは難しい顔で分厚い本を読んでるし、シルビアちゃんは眠気を誘う微振動にやられて大分前に夢の世界へ旅立ってしまっている。 さっさと敵でも魔獣でも良いから出て来て欲しいものだ。 僕のこの切実な願いは天に聞き入れられたようだが、御役所仕事らしく叶えられたのはそれから1時間程経ってからであった。 「寄ってらっしゃい見てらっしゃい、この大道芸師ユタのショーを見逃すと後悔するよ!!」 余りにも暇で風景を食い入るように観察していなければ見逃していたであろう小さな集落。 その入り口で、子供1人くらいならば余裕で入れそうなバッグを後ろに置いたお兄さんが観客を呼び集めていた。 丁度暇をしていた所だし、その集落で今日の宿を取れるかもしれないので暇潰しがてら見学に寄ってみる。 「先ずは肩慣らしにナイフジャグリング。 最初は3本で1巡ごとに1本足していく方式ね。 さーて、僕は何本までいけるかな?」 始まりの合図と共にお兄さんはナイフを投げ、器用に回す。 宣言通り1周する度にナイフを1本足していき、あっという間に10本ものナイフが宙を踊るという大道芸らしい光景になった。 「おっと残念、僕これ以上のナイフは持って来て無いんだよね。 仕方ないからここは今日特別に用意したある物を足してみようかな。」 そう言ってジャグリングを続けながらお兄さんが足で鞄の中から出したのは、導火線が飛び出た一目で爆弾と分かる物だった。 「そぉれ!!!!」 お兄さんはナイフを今までよりも高く放り投げて一瞬両手を自由にし、蹴り上げた爆弾の導火線に火を着けた。 そして導火線に火が灯った爆弾をナイフに加えてジャグリングを続ける。 回す物が10から11に増えた所で、ほぼ見た目は変わらない。 が、やはり刻々と導火線が短くなっていく爆弾には目を奪われる。 例え手違いで爆発したとしても安全な距離にいるが、それでもまるで自分の事のようにドキドキしてくる。 お兄さんの手に爆弾が下りて来た時には、ヒヤッと心臓が縮み上がったくらいだ。 「んー、そろそろ危ないかな。」 もう導火線は小指の先程しか無い。 恐らく、次にお兄さんの手に降りてきた瞬間爆発してしまうだろう。 だがお兄さんは焦る事無くまた爆弾を宙に投げ、手に降りて来たナイフを投げずに回収。
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