第零義 僕の物語

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僕がこの動きをすると事前に知っていなければ、対処は疎か反応さえ難しいはずだ。 突発的な奇行。 それは多くの人が苦手とする事なのだから。 「悪いな、その武器に関しては対策済みだ。」 しかし、ユタと名乗った敵はあっさりと反応した。 遠ざかったり横に避けるのではなく、真っ直ぐ突っ込んできた。 そして銃身を掴み自分を射線から逸らす。 「な──────────ッ!!!?」 教科書に載せられているような、これ以上無い対処方法。 自ら銃口に突っ込んで行く度胸を必要とされるが、この距離ならば後ろや横に逃れるよりも確実に避けられる。 ダンッ!!!! と、銃声が響いた。 しかし、銃弾が貫いたのは虚空だけ。 ユタには掠りもせず、空へと消えた。 「お兄さん達の仕事が終わるまで、眠って───────」 「伏せてろ、サガ!!!!」 振り向くような余裕は無かった。 従わないのならば一緒に叩き斬るまでと、そんな勢いの攻撃が背後から迫り来るのが嫌と言うほど感じられた。 僕の貴重な拳銃が失われるのは惜しいが、命には代えられない。 ユタに握られた拳銃を手放し、全力で屈んだ。 ブオッ!!!! と、頭スレスレを通り過ぎて行く首切りのギロチンのような大剣。 髪が何本か引き千切られその痛みで涙が目の奥から押し出されたが、 もし屈んでいなかったらどうなっていたかを考えると全然安いものだ。 「おひさー、《竜狩》元気にしてた?」 膝の溜めも使わず、ほぼ足首の力だけでユタはバク宙し風を切り裂く大剣を軽く避ける。 ギブソンさんもそれを予想し牽制のつもりで振るったようで、下手に追撃には出ず大剣を構え直した。 「ああ、少なくともお前のそのウッゼェ面見るまでは精神的にも元気だったよ。」 僕の拳銃を掴み取った時の動きの速さを見るに、恐らくユタは英雄。 英雄の相手は英雄に任せ、僕達は。 「ヴィオレッタさん!!!!」 「やれやれ、虎の口の中にわざわざ食われに入るとはなんと間抜けな。」 敵はユタだけでは無かった。 驚く事に、この集落全体。 恐らく元の住民を追い出し、僕達を待ち構えていたのだ。 「行くぞ、ターゲットの捕獲が最優先だ!!!!」 ユタの芸を見に来ていた観客が一斉に僕達の方を振り返り、隠し持っていた武器を手に襲い掛かって来た。
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