第零義 僕の物語

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ただの観客であるとアピールするために大きな物は持てず隠せず、 男達が懐やポケットから出したのは刃渡り10㎝以下の短剣。 ユタに盗られた拳銃の他にもまだ予備のを幾つか残しているので、 短剣を装備している男と比べれば僕の方がリーチ的に圧倒的に有利。 しかし、数が多い。 10人弱の男達を、短剣が届く距離に入られるまでに全員撃ち殺すのは厳しい。 ならば。 「符術【爆雷符】」 向かって来る男達の一団に【爆雷符】の術符を投げ込む。 符術というものを知らない男達は紙切れ一枚で何が出来ようかと、 一瞬視線を送っただけで捨て置き構わず突っ込んで来た。 読み通りの展開。 術符が丁度良い場所に来た瞬間合図を送り、起爆。 全くの想定外であっただろう男達は爆発の衝撃によって纏めて薙ぎ払われ、仲良く地面に転がされた。 この機を逃さず、一人一人確実に膝を撃ち抜いて無力化。 もし目を覚ましたとしても、立つ事すら出来ないだろう。 「─────────そうだ、ギブソンさんの方は!!!?」 一息吐いている場合ではない。 肝心なのはギブソンさんだ。 どれだけ僕が雑魚を倒した所で、ギブソンさんがユタに負けてしまったら何の意味も無い。 ギブソンさんすら勝てない英雄を、僕とヴィオレッタさんで倒せるはずが無いから。 「こ、のッ─────筋肉達磨が!!!!」 「全身の骨を床に落とした煎餅みたいに砕いてやんよ!!!!」 どうやら心配する必要は無かったようだ。 戦況は明らかにギブソンさんの優勢。 ユタは身軽さを最大の武器に手数で攻めるが、攻撃が軽過ぎて決定打に欠ける。 大剣を扱うギブソンさんは確かに手数こそ少ないが、 耐久力を生かしてユタの攻撃を腕や肩の防具で防ぎ隙あらば強力なカウンターを叩き込む。 相性どうのこうのと言うより、多分英雄としての格が違う。 ギブソンさんの方が1枚も2枚も上手だ。 「オラッ!!!!」 決まった。 力量差は歴然。 このままではじり貧だと、決着を焦ったユタはギブソンさんの懐に飛び込み首を掻き切ろうとした。 懐に飛び込んでさえしまえば、大剣では対処出来ない。 そう考えての事だろうが、ギブソンさんは平気で大剣を捨てた。 そして左手で喉元を狙ったナイフを横に弾き、右手でユタの首を鷲掴みにし。 地面へ叩き付けた。
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