第零義 僕の物語

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「ガフッ──────────」 人体の反発係数はそれ程高くは無いはずだが、ギブソンさんの怪力で地面に叩き付けられたユタの体はゴムボールのように跳ねた。 それだけでも最早戦闘不能レベルだが、更に振りかぶった爪先をユタの横腹へ叩き込んだ。 ギブソンさんの脚力で蹴られたユタは手足を伸ばし切ってコミカルに大回転しながら吹き飛び、 集落の方から援軍として駆け付けて来た帝国軍標準装備の兵士を巻き込んで蹴散らした。 「戦闘終了ですね、早く逃げましょう。」 やはりレオンさんの友人を名乗るだけあって、ギブソンさんは強い。 決して弱くは無いはずのユタを、あっさりと倒してしまうのだから。 「あぁ─────いや、残念だがそう都合良くはいかないみたいだな。」 2人。 ギブソンさんに蹴り飛ばされたユタに巻き込まれ薙ぎ払われた兵士の後方に、騎士装束の男女が立っていた。 男は双槍使いとでも言うのだろうか。 長い槍と短い槍を両手に持つという、見た事の無い戦闘スタイルだ。 女の方は突きに特化した剣──針のように刀身が細いレイピアを使うようだ。 多分、英雄だ。 それも、恐らくユタより格上の。 「情けないわね、弱いなら弱いで刺し違えるくらいの気概を見せなさいよね。」 「………………いやー、やっぱ《竜狩》相手に真っ向勝負はキツいッスわ。」 「勘弁してやれクレア、彼は私達でさえ苦戦するであろう強敵なのだからな。」 "苦戦する"とは言ったが、勝てないとは言っていない。 自信があるのだろう。 ギブソンさんを倒せる自信が。 それはハッタリか、それとも真実か。 その答えは。 「チッ……………………………………」 短く、小さく。 しかし、ギブソンさんは顔を歪め確かに舌打ちをした。 ユタ相手の時に見せていた余裕も、今は消えていた。 それが意味する所は、説明するまでも無いだろう。 「No.持ちがこんな案件に2人も出て来るなんて、帝国最高戦力も随分と安くなったものだなぁオイ。」 No.持ち。 それは五十本槍と呼ばれる、帝国軍に席を置く50人の英雄の中でも上位7名に与えられる称号。 つまりは帝国で7番目までに強い実力者の2人が、僕達の前に現れたのだ。 「事の重大性を理解しているからこそ、同盟諸国連合も貴方を派遣したんでしょ《竜狩》?」
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