第零義 僕の物語

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「しかし同盟諸国連合も、私達が帝国の外へ出るとまでは予想していなかったようだな。 これで《鉄龍》や《闇梟》にまで出て来られたら、No.持ち全員で挑まなければならなかった所だ。」 「………………お生憎様、オレは友人に弟子の世話頼まれただけだ。 今回同盟諸国連合は関係ねぇよ。」 ぶっきらぼうに答えながらも、ギブソンさんは片手に大剣を構え戦闘態勢に移行する。 No.持ち2人の相手は自分1人が引き受けると、空いた手で僕達に退がれと指示を出しながら。 「あら、そうなの? なら同盟諸国連合はこの件を然程重要視していない………のではなくて、そもそもここまで辿り着いてすらいないのね。」 「気付かれない様気を張り巡らせて面倒な工作をする必要も無かった訳か。 これは手痛い先制攻撃だ、あれが全部無駄であったと思うと少々凹むな。」 文面上では、このまま交渉次第では事を納められるかもしれない比較的平和な言葉のやり取りのように思える。 しかし、違う。 交渉次第で事を納められるかもしれないなんて、夢のまた夢。 平和的だなんて、そんなのは皮肉の利いた冗談だ。 重圧感。 まだ双方とも行動は起こしていないが、刻々と場の緊張感が高まっている。 感覚としては、獣に真正面から睨まれた時の状況に似ているかもしれない。 いつ爆発するか分からない、極限の緊張。 視界が狭まり、心臓の鼓動が数秒の間隔を空けていると感じる程体感時間が長くなる。 動けない。 場の空気に飲まれ、体が動かない。 虫ケラにも等しい僕が何か行動を起こしたとしても無視されるだけのはずだが、 僅かにでも動けば次の瞬間四肢と首が体から切り離される様なイメージが脳を支配する。 「サガ。」 そんな緊張感の中で、ギブソンさんは僅かに顔を向けて僕に言った。 「シルビアを守ってやれよ。」 「ちょっ──────────」 腕を掴まれ、物のように乱暴に後ろへ投げられた。 そしてその瞬間、目にも止まらぬ嵐のような闘いの火蓋が切って落とされた。 「追え、逃がすな!!!!」 ヴィオレッタさんの水に受け止められた僕はそのまま馬に乗せられ、シルビアちゃんを引っ張り上げる。 悔しいけど、僕がここにいても何の役にも立たない。 寧ろ足手まといだ。 ならば僕がすべきは、ギブソンさんがNo.持ちを足止めしている間に可能な限り遠くへ逃げる事ただ一つ。
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