第零義 僕の物語

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だからこそ、逃げ切るにはあの騎馬の一団を僕が撃破しなければ。 「符術【爆雷符】」 術符を束ねる留め金を外し、風に乗せて背後から迫る騎馬の一団へ飛ばす。 風に舞う術符はバラバラになって広範囲に拡散し、起爆の合図と共に黒い爆煙と衝撃波を全方位にばら撒いた。 無作為な風に任せた分威力は落ちているが、視覚的聴覚的衝撃は期待値の2割増だった。 爆発の衝撃波に巻き込まれた騎馬は勿論、音に驚いた馬が嘶き立ち止まり次々と落馬を誘発する。 「シルビアちゃん、少しだけ手綱お願い。」 【爆雷符】の術符は今のでほぼ全て使い切ってしまった。 だが爆発の音と衝撃波を逃れた騎馬が十騎以上。 これを片付けるために手綱をシルビアちゃんに任せ、馬の背で体の向きを変えて拳銃を構える。 上下に激しく揺れる馬上。 引き金を引いて放たれるのは、直径1㎝にも満たない小さな金属の塊。 それも単純に直線上に進むのではない。 重力や空気抵抗に影響され、距離が開く程に直線とは掛け離れた軌道を描く。 「──────────今ッ!!!!」 馬の足が沈み込み、揺れが止まるその一瞬。 そのタイミングに合わせて引き金を引く。 鼓膜を震わせる発砲音。 肺を膨らませる硝煙の臭い。 下手な鉄砲打ちも数撃てば当たるではなく、限りなく集中した一発。 それが報われるのは、不思議では無かった。 銃弾は帝国兵を1人2人3人…………と、1人ずつ確実に数を減らしていく。 「これで、最後!!!!」 徐々に距離を縮められたが、それは同時に狙いが付け易くもなる。 帝国兵も小刻みに進路を変えたり蛇行したりと拳銃への対策を講じはしたが、 最終的に僕達を捕らえるのが目的なのは変わらない。 距離を詰めようと進路を修正する瞬間を狙えば、それ程苦もなく倒せた。 最後の1人が落馬し、騎馬の一団の撃破完了。 もう僕達の背後から迫る追手は無かった。 「よし、これで何とか───────」 逃げられそうだね、と。 シルビアちゃんに預けていた手綱を受け取ろうとした時だった。 遠く離れ豆粒のように小さくなった集落の方から、こちらへ向かって来る何かが見えたような気がした。 「────────ッ、まさか!!!?」 速い、速過ぎる。 初めは砂粒のように小さく見えたそれが、今は人の形をしたものだと視認出来てしまう。
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