第零義 僕の物語

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馬鹿な、こんな事有り得て堪るか。 一体どれだけの距離を離したと思ってるんだ。 僕達2人を背中に乗せているとは言え、馬の足で20分以上の距離だぞ? それを、僅か十数秒で走破するなんて。 ふざけてる。 英雄の万能ぶりは身に染みて知っていたつもりだったが、ここまで突き抜けた存在だったなんて。 視認出来るようになってから追い付かれ、そして追い越されるのに数秒と掛からなかった。 凄まじい風が横を駆け抜けて行き、目と鼻の位置に立ち進路を妨害した。 「こ、の──────────ッ!!!!」 強引に進路を右に変更しようとしたが間に合わず、そのまま轢き潰すように突っ込んだ。 しかし、相手は英雄。 僕達2人に馬と、自分の何倍もの重量による突進を片手で軽々と受け止め掴み上げ。 ぶん投げた。 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」 「クッソォォォォォォォォォォ!!!!」 宙に投げ出された。 馬ごと。 紙屑をゴミ箱に捨てるように、片腕の腕力だけで。 気持ち悪い浮遊感。 胃の中の物が重力を失うような感覚。 一瞬自分の体が風に乗せて飛ばされる木の葉であるかのような錯覚を覚えたが、 急速に地面が迫っているのを見て落ちているのだと自覚する。 「符術【結界】」 僕と同じく宙へ投げ出されたシルビアちゃんを抱き留め、体を結界に擦り付けて落下速度を殺す。 「離れてて、シルビアちゃん!!!!」 シルビアちゃんを遠ざけ、理不尽を集めたような敵と相対する。 敵はブロンドの長髪を風に靡かせる、S気の強そうな美女だった。 帝国らしい華美な士装束から察するに、恐らくギブソンさんが足止めをしてくれている2人の英雄と同じNo.持ちだろう。 だけど、こっちのお姉さんの方には先程の2人には見られなかった特徴的な金の勲章が胸で存在を主張している。 もしかしたら、あの2人よりも位が上なのかもしれない。 「シルビア・ラヴクラフトだな? 我々に同行願おう、理由はわざわざ説明しなくても理解しているはずだと思うが。」 「ちょっとちょっと、僕はこれでもシルビアちゃんのナイトなんだ。 同じ騎士として、無視するのは頂けないね。」 強がってはみたものの、どうすれば良いのだろうか。 英雄と正面切っての戦闘になった時点で、もう99%負けてる。
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