第零義 僕の物語

82/118
前へ
/786ページ
次へ
一応レオンさんに対英雄の戦闘方法を教わってはいるけど、そんなものは気休めにすらならない。 格が違うのだ、この人は。 普通の人間より速く走れて力が強いだけの"普通"の英雄とは違う。 ギブソンさんのような、英雄としての能力の他にも何かがある強者。 今まで出会った中では《鉄龍》の子龍さんが一番近いかもしれない。 「これは失礼した、君も少しばかり幼くはあるが私と同じ騎士だったのだな。 ならば先ずは君に話を通さなければならないな。」 良かった、話は通じる。 問答無用で実力行使をする兎にも手を抜かない獅子みたいな人だったら、僕に勝ち目は1%も無かった。 まだ可能性はある。 会話の中で、1%を呼び込む神の一手に繋がる何かを見つけられれば……ッ!!!! 「私が仕える帝国はシルビア・ラヴクラフトの協力を必要としている。 なので私達と共に帝国まで来てもらいたいのだが、どうだろうか? 先程も言った通り、君達の身の安全は私が保証するぞ"サガ・ニーベルヘルン"。」 「────────ッ、残念だけどお断りだよ。」 この人、何で僕の名前を…………………? 勿論名乗った覚えなんて無い。 英雄の驚異的な聴覚でシルビアちゃんが僕を呼んだ時に名前が"サガ"である事は分かったとしても、 "サガ・ニーベルヘルン"とフルネームは分からないはず。 まさか、そこまで調べが付いてるのか? 知名度なんて全く無い、レオンさんの金魚のフンをしてるだけの僕の名前まで? 「我が剣と父の名に誓っても良い。 帝国の騎士にとってこの誓いは絶対だ。 これを違える時、騎士は自らの命を以てして購う。」 「そんなの美味しい話を持ち掛けて来るセールスマン並に信じられないね。 そんな旨い話があるなら人に教えないで自分でやれってんだよ。」 「………………どうしても、大人しく従う気は無いのだな?」 「僕だけを御指名なら、喜んで一緒に行くんだけどね。」 ならば、と。 騎士のお姉さんはこれ以上の会話を無駄と見なし切り上げ、英雄お得意の実力行使に移る。 少し話しただけで痛感したが、お姉さんは舌先三寸で丸め込めるような人ではない。 ハッタリが通用するような人でも無い。 ここを切り抜けるには……シルビアちゃんを守るには、倒すしかない。 最上位の英雄を、僕一人で。
/786ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30236人が本棚に入れています
本棚に追加