第零義 僕の物語

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全く悪い冗談だ。 いつから僕はレオンさん並の不幸人間になってしまったのか。 「手加減はするが、力加減を誤って殺してしまうかもしれない。 それが嫌ならば余り抵抗してくれるなよ?」 手加減をすると言うのは、どうやら本当らしい。 騎士のお姉さんは剣を使わず、素手だけで僕の相手をしてくれるようだ。 構えもせず、散歩するような気軽さで接近して来る。 そうだ、それで良い。 非情で冷酷無比な戦闘のプロでも、3歳児相手に本気を出して容赦無く徹底的に叩く事はしない。 それは大人気無い行為であり、危険は無いと確信しているからだ。 だから、気付かせてはならない。 軽く捻り潰せると舐めていた雑魚が、報いる一矢を隠し持っている事を。 「符術【結界】【鋼化】【爆雷符】」 複数の結界を重ねて展開し防護壁を築き、それに【鋼化】の符術で鋼鉄の強度を与える。 更に外側で爆雷符を起爆させ、衝撃波をお姉さんに浴びせる。 攻防一体の第1手。 これを相手が避けるか防ぐかしている内に、次の手を 「な───────────ッ!!!?」 爆発の黒煙から伸び出て来た手が、鋼鉄の強度を持たせた結界を薄いビスケットのように突き破った。 驚いている暇も無く結界を突き破った手は僕の首を鷲掴みにし、持ち上げた。 「グッ──────ァ────────」 喉に指が食い込んでいく。 脳に酸素が送られず、虫食いのように視界が黒く食い潰されていく。 ジワーッと、頭の天辺が熱くなり意識が薄れていく。 「奴の弟子と聞いて多少は期待出来るものだと思っていたが………フム、やはりまだ技術・経験共に不十分のようだな。」 喉を締め付ける握力が強くなる。 意識の薄れる速度が増し、それに伴い思考力も低下する。 昼食後の強烈な眠気に似た感覚。 落ちていく。 意識が。 だが、ここだ。 隠し持っていた牙を見せるのは、ここしかない。 「まだ抵抗する気力があるのか。 我慢すればする程苦しくなるだけだぞ?」 「……そう、やって…………見下して……余裕、こいて…るから………痛い目見るんだよ!!!!」 喉を締め上げる腕を両手で掴み、騎士のお姉さんの腹を蹴る。 英雄にとってこの程度の攻撃は屁でもないはずだが、漸く僕の牙が届いたようだ。 「何だ、これは………………………………」
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