第零義 僕の物語

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首を締め上げる手の力が緩み、僕の非力な蹴りで絞首から逃れられた。 「ガハッ──────痛ッ………………………」 意識を喰われる寸前だったのでろくに受け身も取れず背中から落ちたが、兎に角間に合ったのだ。 僕の牙が。 「針……………………………毒か?」 「ゴホッ、ゲホッ……………そうだよ御名答!! その針には毒を仕込んである。 それもただの毒じゃない。 高位の魔獣から抽出した毒を、更に濃縮させた猛毒さ!! 毒に耐性がある英雄ですら絶頂不可避のね!! ザマーミロってんだ!!!! 御高く止まってるから僕みたいな素人に足元掬われるんだよ!!!!」 見てろ、今に崩れ落ちるぞ。 全身をガクガク震わせて顔すら庇えず倒れるんだ。 そして朧気に残っている意識の中、雑魚と侮っていた僕達が悠々と逃げて行くのを見送るんだ。 さあ、早く。 驚愕に目を見開いて倒れてしまえ。 これまでの人生敗北や挫折とは無縁の英雄様が下策に倒れるのは、この上無い達成感だ。 早く、早く倒れろ。 今度は僕が見下してやる番だ。 倒れろ、倒れてしまえ。 その膝を折って、情けなく倒れ……………………ない。 「何………やってんだよ? 痩せ我慢してないで倒れろよ!!!! 澄ました顔してないで白目向いて倒れろよ!!!! 何で平気そうに突っ立ってるんだよ!!!?」 有り得ない。 対英雄の最後の切り札として3回は使える量を一度に注ぎ込んだんだぞ。 それで倒れもせず、まだ僕を見下しているなんて有ってはならない。 そんな理不尽があって堪るか。 現実も、それ程までに厳しくあってはならないだろうが……ッ!!!! 「クソッ、ふざけ──────────」 「自分が卑怯な手を使っているようで申し訳ないが、私は英雄なのでな。 毒や薬物に対する耐性は普通の人間の比ではないのだ。」 「ふざけるなよ、その毒は耐性が高いだけで防げるような代物じゃないぞ!!!?」 「あぁ、確かに強力な毒のようだ。 私の"素の"耐性では無効化できない程のな。 だが私達英雄は感情を昂らせ………要は精神を強く持つ事で、 毒や薬物に対する耐性・免疫・代謝・回復力を高める事が出来る。 それも私は第一世代の英雄だ。 身体機能を向上させる能力に関しては、二世代以降の英雄を遥かに凌駕する。」
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