第零義 僕の物語

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「ギブソンさん達の救援は……………間に合わなかったんだね、僕達の現状を見る限り。」 僕がもう少し時間を稼いでいれば。 限界まで臆病に震えるだけの草食動物を気取り、騎士のお姉さんに実力を発揮させず会話か何かで場を繋いでいれば。 何とかなったかもしれないのに。 しかし、シルビアちゃんは首を横に振った。 「実はあの後──サガさんが気絶して直ぐに、御二人が駆け付けてくれたのですが…………………………」 「冗談、だよね?」 「いいえ、残念ながら事実です。 終始押され気味──と言うよりほぼ一方的で、援軍も来たので戦略的撤退と……………………」 精霊の力が弱まり召喚士としての実力が十分に発揮出来ないヴィオレッタさんは兎も角、 あのギブソンさんまで一方的だったとは一体どういう訳だ。 確かに第一世代の英雄と比べれば能力的には劣るかもしれないけど、ギブソンさんは戦術を駆使して闘う珍しい英雄だ。 言うなれば、高い知能を身に付けた獣。 そんな人が一方的にだなんて、騎士のお姉さんはどれ程の化け物なのだ。 「そうだよね、この状況が全部物語ってる訳だし……………信じたくなくてもそれが事実か。」 ギブソンさんがやられている所なんて想像出来ないけど、受け入れるしないだろう。 受け入れて、逃げるための算段を立てなければ。 「失礼します、我が主がサガ様をお呼びです。」 「僕を?」 一体何の用だろうか? シルビアちゃんだけではなく使い走りに過ぎない僕まで捕まえて、 おまけに牢屋ではなく客人に宛がうような上等な部屋まで与えて。 その上僕をご指名とは、ここの主人は中々酔狂な人らしい。 どれ、害は無いと油断し切っているようだったら脅して人質に取ってここから逃げるくらいの気概で行ってやるとするか。 「サガさん…………………………」 「大丈夫、少し行ってくるだけだから。」 心配そうに見詰めるシルビアちゃんに空元気を見せ、案内役として来た初老の執事に着いて行く。 「へー、立派なもんだねぇ。」 僕のように慣れない人間では酔ってしまいそうな程に華美な空間。 染み一つ無い純白の壁や柱や手摺。 芸術性溢れる調度品。 嫌だねぇ、こういう如何にもな成金趣味は。 僕みたいな貧乏人は思わずハンマーで色々とぶっ壊して墨をぶち撒けたくたるよ。
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