第零義 僕の物語

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「サガ様、今から貴方がお会いする方はゲオルギウス公爵家の嫡女。 くれぐれも失礼の無いようお願いします。」 「失礼が無いようにだって? 面白い冗談を言うね。 拘束するどころか武器すら取り上げて無いクセにさ。 やる気あるの?」 「我が主人は大変御強い方ですので。 貴方が持っている程度の"遊具"でどうこう出来る相手ではありませんよ。」 成る程ね。 どうやら僕を指名したのは、あの騎士のお姉さんのようだ。 それならば武器が一切取り上げられて ないのにも納得だ。 今僕が持っている程度の武器で暴れた所で、数秒と経たない内に鎮圧されてしまうだろう。 ここは大人しく、真意を図るべきか。 「やあサガ君、起きて早々に呼び出してすまないね。」 騎士のお姉さんの私室………なのだろうか? 必要最低限の家具しか置かれておらず公爵家嫡女の部屋にしては随分と寂しく見えるけど、 ベッドの下に隠れた隠し切れていない年季の入ったクマのヌイグルミを見る限り女性の部屋である事に間違いは無い。 僕は促されるまま、カナッペやサンドイッチが並べられたテーブルに座った。 「飲み物は紅茶で良いかな? ゲオルギウス家が管理する農園で今年収穫した茶葉でな、私的にはここ数年で一番の出来だと思っている。 是非飲んでみてくれ。」 騎士のお姉さんはメイドからティーポットを受け取り、自分のと僕の分で交互に濃度が同じになるように注ぐ。 最後の一滴、一番美味しいとされる一滴を僕のカップに垂らして渡してくれた。 「へぇ、良い香りですね。」 甘い、マスカットのような香りだ。 でも味は若干苦いと言うか渋いと言うか。 僕の貧乏舌では、ティーバックで入れた物と然程変わらないように感じられるが。 「毒が入っているとは疑わないのだな?」 「毒殺するなら僕が寝てる時にでもやれば良いでしょ? わざわざこんな場を用意する必要なんて無いですよ。 ま、貴女に毒を飲まされると言うのも中々趣味の良い皮肉だと思いますけどね。 て言うか、屋敷の中ではドレスなんですね。」 騎士のお姉さん…………と呼ぶには、今の格好は相応しく無かった。 今は勲章を強調するような騎士装束も剣も身に付けておらず、簡易的なドレスだけを纏っていた。 あの騎士然とした凛々しい姿を見ていなければ、大貴族様の箱入り娘にしか見えない。
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