第零義 僕の物語

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未だ素人の域を出ない僕の何処に注目すると言うのか。 各業界からラブコールを受けるような何かをした覚えなんて無い。 有るとすれば。 「レオンさん…………ですね?」 所謂異世界から来た僕は、この世界では何も持っていない。 持っているものと言えば、この身と"レオンさんの弟子"という肩書きだけだ。 「そうさ、《疾風》レオンハルト・スターダスト一番弟子のサガ君。 《疾風》は………君の師匠は露出を嫌うので一般人にこそ知られていないが、 各業界の重役や実力者でその名を知らぬ者はいないだろう。」 「やっぱり有名なんですね。」 「あぁ、凄まじく腕の立つハンターとして有名だ。 それ以外にも、嘘か真か分からない作り話のような英雄談を幾つも持つ戦士としてもな。 そちらは大部分がただの噂とされているが、実際の所どうなのだろうね?」 「お姉さんが"どの"噂話を聞いているかは知りませんけど、多分どれも本当の話ですよ。」 「アルシェだ。 お姉さんと言う呼ばれ方はむず痒くなるから止めてくれ。」 少し照れ臭そうに咳払いをしたアルシェさんは、キリッとした顔で話を戻した。 「もう理解出来ただろう? 長年彼は一人で活動していたが、遂に弟子を取ったのだ。 これが発覚した時は帝国でも騒然としたものだ。」 「僕ごとき警戒するようなものでも無いと思うんですけどね。」 「今はな。 だが《疾風》の弟子になったという事は、将来的に《疾風》に匹敵する人物に成り得る可能性を大いに秘めている。 《疾風》が2人。 正直それは悪夢だよ。」 レオンさんが2人。 うん、考えたくもないね。 「《疾風》一人にさえ、私達帝国は10万の大軍と"戦争"をされて負けた。 それも文字通りの"全滅"という形でな。」 「でもそれは、王国の守護神………帝国ではメルフィスの悪魔と呼ばれてるんでしたっけ? 彼と100人の英雄の協力があったからこそだと聞いていますよ?」 「しかし1人で1万人以上を血の海に沈めたのは事実だ。 そして100人の英雄の協力があったからこそとは言うが、 それはつまり"100人の英雄を呼べるだけの繋がり"が彼にはあるという事だ。 帝国という強大な国家に敵と認定されるのも厭わない程強い繋がりがね。」 「確かに、改めて考えると凄いですよね。 レオンさんがどれだけ恩を安売りにしているかが分かりますよ。」
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