第零義 僕の物語

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「……………………僕を、殺すんですか?」 その質問に対する答えは、少々妙な言い回しで返された。 「あぁ、殺すべきだろうね。 ゲオルギウス公爵家次期当主アルシェ・ゲオルギウスは、 《疾風》レオンハルト・スターダストに見出だされた将来の脅威サガ・ニーベルヘルンを芽が青い内に始末すべきだ。 それが帝国の総意であり、私も同じ考えだ。」 「何を……………………………」 だがね、と。 アルシェさんは問題を提起するように指を立てた。 「サガ・ニーベルヘルンという怪物が目覚めない内に殺すのが帝国の総意ではあるのだが、 誰がそれを命令しそして誰が実行するのかが決まっていないのだ。」 「決まってないって………………こうして手を伸ばせば届く近さにいるんですから、アルシェさんがやれば良いだけの話では? わざわざ誰かの命令を待つ必要があるんですか?」 「誰だって死ぬのは嫌だろう? 確かに私も騎士の任命式ではこの身と魂を国に捧げると誓いはしたが、 まさかそれを本気で実行する輩はいないだろう。 一端の愛国心は持っているが、そこまで殉じるつもりは無いのでね。」 「話が見えて来ないのですが………………………」 「皆怖れているのだよ、君の師匠の報復をね。 あぁ、騎士として一騎討ちの決闘で死ぬならば文句は無い。 私も意識が永久に消滅する死は怖いが、正々堂々たる勝負の結末ならば甘んじて受け入れよう。 だが君の師匠はそのような騎士道精神なぞ持ち合わせてはいないだろう? 相手が正々堂々を貫くとしても、自分は徹底的に外道邪道を行き"勝負"に持ち込ませない。」 「知ったような口振りですね。」 「かつて第5位皇位継承者の皇子が《疾風》と親交のある女性を北方の国へ奴隷として売り飛ばした事件があった。 事に及んだ理由は《疾風》に自分の下に就くよう命令したが一蹴された腹いせだったかな。」 「その皇子はどうなったんですか?」 「死んだよ、自殺だったかな。 頭のキレる皇子だったのだが、精神に異常を来してな。 療養先の別荘で回復の兆しを見せていたのだが、何故か密室で首を吊っていたらしい。」 「それを、レオンさんが?」 「彼がやったという証拠は無いのだがね。 あぁ、証拠が無いと言うよりこの事件に関わった者が相次いで変死したため捜査も打ち切られて迷宮入りしてしまったと言う方が正しいかな。」
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