第零義 僕の物語

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「それなら────────」 「ならば彼が下手人では無い可能性も考えられると言いたいのだろうが、だとしたら他に誰がいる? 私も全知全能の神では無いのでな、その可能性は無いと断定する事は出来ない。 しかし、帝国の皇子を自殺に追い込むような度胸と実力を兼ね備えた人物を私は彼以外に知らない。 "目的"のためならば平気で"国を一つ犠牲"にする彼以外にはね。」 目的のために、国を一つ犠牲にした? レオンさんが? 22歳にもなりながら未だ童貞を守り続けてるレオンハルト・スターダストが? 「サガ君、ヴォルポ王国という国を知っているかい?」 「いえ、聞いた事も…………………………」 「つい最近"異世界"から来た君が知らないのも無理は無い。 ヴォルポ王国とは、もう2年も前に帝国に併合された小国だ。 地政学的にとても難しい場所に位置していたため同盟諸国連合の助力を得られずにいたが、 長年帝国の支配を受けずに独立を守っていた。 だが2年前、彼は大きな選択をした。 一人の少女を救い、一つの国を滅ぼすという選択を。」 それは……………美談、なのだろうか? 一人の少女を救うために一つの国を滅ぼす。 レオンさんが主人公として描かれる物語ならば、何を犠牲にしてでもヒロインを守り通す最高に痺れるヒーローだろう。 だが、逆から見れば? 即ち、一人の少女のために滅ぼされる国の側から見たら? それはヒーローではなく、真逆の……………… 「彼の望み通り少女は救われた。 人柱として心を完全に食い潰されるまで酷使された後ゴミのように廃棄される予定だった彼女は、 光の差す世界へ引き上げられ本来ならば得るはずの無かった幸せを謳歌している。 だが、代わりに一つの国が滅びた。 多くの血が流れ罪の無い大勢の人々が嘆き悲しみ、ヴォルポ王国出身というだけで後ろ指を指される人生を送る仕打ちを受けた。」 先の言葉を探すようにアルシェさんは目を閉じ、会話を途切れさせた。 「私はねサガ君、軍人であり大貴族の次期当主だ。 物事を決断し人に命令する立場の人間だ。 だから皆を等しく救う等という出来もしない綺麗事は言わない。 百の命を救うのに十の命が必要ならば迷わず十を捨て、 千の命を救うのに百の命が必要ならば同じく百の命を切り捨てる。 救われる命が最大の選択をする。 それが私の正義だ。」
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