第零義 僕の物語

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「えぇ、言いましたね。 貴女は救われる"人"よりも救われる"命の数"こそが重要なのだと。」 「上はあれを海路の封鎖を解いた後も、同盟諸国連合に対する便利な生物兵器として利用するつもりだ。」 「でしょうね、蟻や蜂のように死ぬまで働いておまけに幾らでも増やせる魔獣なんて誰も手放しませんよ。」 「自らの死を覚悟し了承した軍人に向けて使うのならば私も目を瞑るが、 真っ先にかつ最も多くの犠牲となるのが戦とは無縁の民間人だろう。 闘う術を持たない弱き者が食欲と性欲の権化たる昏き者の餌食となるのは私の望む所ではない。 犠牲が少なく済むのならば、例え帝国軍人としての立場に反するとしても私はそちらを選びたい。」 「それでシルビアちゃんを捕まえて引き渡した本人が、今度は僕に助け出せですか。 貴女は立派な正義の味方ですよ。」 それ程までに犠牲を嫌うのならば、僕ではなくアルシェさんが自分で行けば良いと思うんだけどね。 第一世代の英雄という御立派な力があるのだから。 やはり帝国軍人、大貴族という己の地位は捨てられないのだろう。 「サガ君、私はシルビア・ラヴクラフトを救えとは一言も言っていないぞ? 彼女を無事救出するのは、それは君の勝利条件だ。 彼女"も"救われるのならば、私としても喜ばしい事だ。 だがそれは、至難の業だろう。 婚礼の儀にはNo.持ちも何人か立ち会うと聞いている。 そこからシルビア・ラヴクラフトを助け出すのは今の君では非常に難しいだろう。 上手く助け出せたとしても、帝国の勢力が及ぶ限りの所まで追われ続けるだろう。 果たして彼女を守りながら逃げ切れるかな?」 「それは……………………………」 無理だろう。 正直言って。 どんな策略を弄すれば、英雄が何人も控えた式場からシルビアちゃんを奪い返して帝国から脱出出来ると言うのか。 「……………………なら、貴女は何で僕を見逃す上に馬まで用意してくれるんですか? シルビアちゃんを救い出すのはほぼ不可能と分かっていながら。」 「期待しているからだよ。 《疾風》の弟子ならば、私には想像も付かない奇想天外な方法で彼女を救うと期待している。 それに、私の予想通り彼女を救えなかったとしても君には一つやれる事があるだろう? 彼女が昏き者を使役する道具として"生かされた"場合、犠牲となる万の人々を救うために出切る事が。」
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