第零義 僕の物語

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落ち着いて考えてしまうと、不可能な要素ばかりを挙げて足がすくんでしまう。 だから、今は考えない。 あれこれ頭を悩ませるのは、取り敢えず式場に着いてからだ。 「新郎、貴方は──────────」 式場となる教会に潜り込むまでは、存外簡単に事は運んだ。 この婚姻の儀の重要性を示すように厳重な警備が何重にも敷かれていたが、 鞍に刻まれたゲオルギウス公爵家の紋章を見せると大して確認もされず通され敬礼までされた。 だがここまでは皮肉にもアルシェさんの御膳立てによるもの。 僕の実力が試されるのは………僕の真価が問われるのは、ここからだ。 「(……2人────いや、3人も……)」 式場を上から見渡すと、他とは異なる騎士装束を纏ったNo.持ちと思わしき者が3人。 更に統一された装備で没個性化された兵士に混じり、格好の自由を許された英雄らしき者が10人近く。 一個大隊が配備されている外の警備も大概だが、教会の中はそれ以上だ。 まるで今から何処かの国に攻め込むような戦力ではないか。 「では新婦、貴女は─────────」 婚姻の儀もいよいよ終盤に差し掛かる。 新婦──つまりシルビアちゃんが誓いの言葉を言えば、婚姻が成立。 形ばかりではあるが、14歳と中年のアベックの誕生だ。 そして、昏き者の使役権がシルビアちゃんから新郎へと譲渡される。 「(……クソッ、まだ全然!!!!……)」 シルビアちゃんが到着してから式が始められるまで、ほとんど時間が無かった。 どうやら前準備は新婦不在のまま進め、あとはシルビアちゃんが到着するのを待つだけにしておいたらしい。 お陰で大一番のための準備が進まず、用意出来たのは理想の1割。 及第点の4割程度だ。 それでも、今出なければ。 恐らく、シルビアちゃんが誓いの言葉を述べ夫婦として成立した瞬間使役権が譲渡される。 それを許してしまうと、万の犠牲が出てしまう。 行くしかない。 数百人の兵士と10人以上の英雄が待ち構えた地獄へ。 「符術【爆雷符】」 教会の入り口近くの窓に設置しておいた術符に起爆の合図を送り、 ガラスの破片を雨霰と招待客の頭上に降り注がせる。 突然の爆音とガラスの破片による奇襲で教会内は何事かと大騒ぎになり、 僕の作戦通り厄介な英雄の注意が入り口の方に向いた。
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