第零義 僕の物語

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「今──────────ッ!!!!」 行かせまいと腕を掴む臆病なサガ・ニーベルヘルンの手を振り払い、 埃が積もった天井近くの梁から一気に下へ飛び降りた。 雄叫びを上げて頭の大部分を支配する不安と恐怖を払拭したい所だが、 僕の存在に気付かれるのは一瞬でも先延ばしにしたい。 歯を食い縛って声を我慢し、衆目を得られないまま一世一代の大舞台に降り立つ。 「ヘイ、幸せ真っ只中な所悪いけどそこから退いてもらおうか。 粗末なナニでシルビアちゃんのヴァージンを貫く前に、その可哀想な頭を鉛弾で撃ち抜かれたくないのならね。」 昏き者の使役権を行使する者としてシルビアちゃんの伴侶に選ばれた男は、 どうやら肝っ玉の据わった豪傑ではなく利用のし易さから選ばれた小物らしい。 アワアワと場の空気に飲まれていた所に後頭部へ銃口を突き付けると、 情けなく短い悲鳴を上げて助命を懇願し始めた。 「邪魔、退いてろ。」 そんな小物に使う弾が勿体無いので、股間を蹴り上げて強制的に退かせた。 「ごめんシルビアちゃん、少し遅くなった。」 見苦しい中年の男を退かし、純白のウエディングドレスを纏ったシルビアちゃんと対面する。 綺麗………と言うより、可愛い。 やはり14歳という幼さであるため、似合ってはいるのだが花嫁を夢見る少女のコスプレ感が否めない。 「サガさん……………………………」 鮮やかな口紅が塗られた唇の隙間から漏れたのは、歓喜とは程遠い不安そうな声。 多くの敵が待ち構えた虎穴に一人飛び込むというカッコいいシチュエーションではあるが、僕では頼り甲斐が無いのだろう。 やはりレオンさんのようにはいかないな。 「衛兵!!!!」 闖入者が新郎の股間を蹴飛ばし入れ替わりで新婦の横に立ったこの状況に、 真っ先に反応し対処したのは壇上の神父だった。 傍に控えていた兵士を呼び、僕に当てさせる。 「狼藉者め、誰の許しを得て──────」 言い終わるのを待つ程僕は暇人ではない。 左右のホルダーから拳銃を抜き、向かって来る兵士の足を撃ち抜いた。 2発の銃声は喧騒の中に消え、混乱は収まる気配を見せない。 「今の内に───────────」 混乱に乗じて脱出する。 既に何人かの英雄がこちらの存在に気付いているので迷っていられる余裕は無く、直ぐ様行動に移り【閃光蛍】を取り出した。
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