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「皇汰、皇汰ってば」
弟に引きずられながら、楠木みかどは慌てている。
あの家には自分の居場所は確かに無かった。
それは自覚しているが、養って貰っている身分で出ていくことは叶わないと思っていた。
貯金は、お年玉のみ。持ち物も無くなった母親の古着や家具などを使っていた。
今、本当に身一つで逃げだした状態で、弟の無鉄砲ぶりにあたふたしているところだ。
「あんな家、帰らなくて良いってば。ってか、あんなの家族じゃねえ。俺も、家族は姉さんしか居ないって思ってるから」
信号で律義に止まった皇汰は、息を整えてみかどが落ち付くような柔らかい声で言うと、頭をくしゃくしゃと撫でる。
中学二年生、身長はまだみかどより目線が少し上なだけで170センチ満たないぐらいだろう。
それなのに、落ちついた優しい少年だった。
「じゃあ、今からどうすればいいの?」
「当てがある。駅の近くにあるCafeなんだけど」
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