帰宅部員の憂鬱

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「秋といえば?」と訊けば、あいつらは迷うことなく 「スポーツの秋」と答えるのだろう。 いや、秋に限ったことではない。 グラウンドに響き渡るノック音と怒声。 弱小野球部のくせに練習風景だけは一丁前だ。 夏の高校野球は万年地区予選止まり。しかも今年は初戦敗退ときた。 それなのに、よくもこう毎日毎日頑張れるものだ。 一体、何が楽しいんだか。帰宅部の俺には理解できない。 グラウンドに面した校門への道を辿りながら、今日一日のことを思い返す。 「……何も無かったな」 ぽつりと漏れた言葉も、秋風に掻き消された。 「すいませーん! ボール取ってくださーい!」 背後からの大声に立ち止まり、振り返る。 数十メートル先には、いかにも補欠といった感じの、ひ弱そうな男がグローブを掲げている。 地面に目を落とせば、白球がてん、てん、と転がってきて、俺の足に当たった。 仕方なく拾うと、男は白い歯を見せ、帽子を脱いで一礼する。 ……気に食わない。 嫌に甘ったるい金木犀の香りも、 文化祭を前にしてきゃっきゃと笑い合う女子たちの声も、 やけに生き生きとした野球部員の顔も、 あの時――この足ではもうサッカーはできないと言われたのと同じ、この季節も、 全部、全部、気に食わない。 「あのー! すいませーん!」 気に食わない。 俺は手にしたボールを天高く、あさっての方向へ放り投げた。 ああっ! と悲鳴にも似た声が上がるが、どうでもいい。 澄み渡る秋の空に浮かぶ白球は、なぜかとても眩しく見えた。 …………帰ろう。 俺は背を向けて歩き出す。 このグラウンドは、今の俺には関係の無い場所だ。 帰ろう。 振り返ることなく、真っ直ぐに、帰ろう。
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