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バサッ、バササササ・・・・。
清はハッと目を覚ました。咄嗟に窓から外を見ると、上空で大きなカラスが一羽、翼を広げて滑空していた。アパートの庭に植わっている古い柿の木から、あのカラスが飛び立ったのだろう。珍しいことではなかった。珍しいと言えば、読書好きの清が、読書中に無意識に眠りについてしまっていたということだろう。それほど睡眠不足が響いているのか、それとも恋愛小説に興味が無いからなのか。
「うわっ、やばっ」
清はテレビの上の時計を見るなり、慌てて支度を始めた。まさかこれほど長い時間眠ってしまっていたなんて。鞄に読みかけの小説を放り込み、脱ぎ散らかしたままのジーンズに足を通し、ハンガーから外したばかりのTシャツを拾い上げ、頭と袖を通した。テレビを消し、財布を持ち、窓を閉め、ガスや電気水道の確認をして、清はアパートを飛び出した。
駐輪場から自分の自転車を抜き出し、それにまたがると、勢いよくペダルをこぎ始めた。全身をなでる風が心地良い反面、ペダルをこぐことで体温が上昇する不快感もあった。
清は駅の駐輪場に自転車を突っ込むと、駅の改札へダッシュした。ホームに着いた時、無情にも急行電車は走り出していた。これで遅刻確定だ。
また今日一日、あいつから小言を言われるのか・・・。心でぼやきながらも、なぜか清は笑顔を浮かべていた。そして呼吸を整えながら清は、ホームのベンチに倒れ込むように腰を下ろした。自転車に乗っていたときの爽快感は嘘のように、今はただジトジトと暑さが全身に伝わってくる。額からは止めどなく汗が流れ落ち、まるで顔から小便をしているようだ。
20分程待って、ようやく各駅停車の電車が到着した。次の急行電車に乗るよりも、この方が目的地に早く着けるので仕方なくそれに乗った。車内は冷房が利きすぎており、瞬く間に汗で濡れたシャツが、容赦なく背中や腹に冷たくぴたりと張り付いてきた。やがて寒さを憶え、清は冷房の風のあたらない場所を探しながら席を移った。いくら暑いからって涼しくするにも限度があるだろ。こりゃ風邪引くな。
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